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口は災いの元

...


ここは蝶屋敷。ある昼下がりのことである。


鬼を討伐した際に負った傷の療養のため滞在していた炭治郎、伊之助、善逸
近く任務へ戻る事もあり今は機能回復訓練に急いでいる最中





のはずなのだが……



「ガハハッ!!コレは俺様のだァー!!」
「はぁああ!?コレはいつも頑張ってる俺にってくれたんだよ!バカ!!」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて…」

「うっせー!菓子の一つや二ついーだろォ!」
「よくねぇー!返せよッ!!」
「!!!」



菓子の取り合いをしていた。



それは日頃から鬼殺隊として頑張る彼らに少しもの褒美だとしのぶから高級菓子を貰ったのだ。

お菓子を独り占めする伊之助を追いかける善逸。二人は炭治郎の周りを走りまわる。炭治郎は困ったように眉を下げてみんなで分ければいいだろと長男らしく宥めている。



「コラー!!そこで何してるの?!もうとっくに休憩時間は終わりでしょ!」

そこに洗濯物を取り込みに来たなまえが言い争う声を聞き駆けつけた。



善逸は菓子を取り返そうと伊之助に向かって飛びかかるが、伊之助が素早く避けるものだから空を切った身体はそのままなまえへと向かう。

なまえは突然自分へ善逸が飛んでくるのを感じ、思わず目を閉じる。そしてなまえが地面に尻餅をつきその上に善逸が被さる形になった。


「……あ!二人とも大丈っ…!!」


炭治郎が慌てて声を掛けてると同時に凛と澄んだ声が聞こえてきた。



「……ねぇ。一体これはどうなってるの?説明してもらえるかな?」

声の主は霞柱 時透無一郎である。
任務が終わり恋仲であるなまえを迎えに来たのだった。

腕を組み首を傾げると髪がサラリと肩から流れる。
女の子と見間違えるほど可愛らしい姿とは裏腹に酷く冷めた目で善逸を見下していた。そんな無一郎と目が合った善逸は身体がビクリと硬直しダラダラと冷や汗を流す。

それに対してなまえは背中から聞こえてきた無一郎の声に振り返り、満面の笑みを浮かべて話しかける。

「あ、無一郎くんっ!おかえりなさい、今日はいつもより早かったね!」

「……ただいま、なまえ


それより君、早くそこどきなよ。いつまで汚い体でなまえに被さってるの」


鋭く、ドスの効いた声で話す無一郎。
善逸はシュタッ、と素早くなまえから離れその場で正座をした。

無一郎はなまえに近くと、両脇に手を入れて軽々と持ち上げ立たせる。お尻に付いた砂埃を払うとなまえはニッコリとありがとう、と無一郎の手を握る。
無一郎も笑顔でどういたしましてと返すが、すぐに視線は善逸へと戻される。

子犬の様にプルプルと震えながら今にも泣きそうほど目に涙を溜めている善逸。


「あの、えっと、これは事故であって!
決して下心があるわけじゃっ……そりゃ、石鹸のいい香りがするとか、身体が柔らかくて包まれたいだなんて思って無い訳ではないけどさっ!」


善逸の口から止めどなく溢れ出す言葉がなまえに対しての願望なのか、ただただ女子への願望なのかは定かではない。ただ必死に手をバタバタと上下に動かし弁解を図るが喋れば喋るだけ自分の首を自ら絞めている様だった。


黙って聞いていた無一郎だが腰に収めてある鞘から刀を抜き静かに鼻先へと伸ばす。小さく喉の奥から悲鳴が上がった。


炭治郎と伊之助は本能的に危険だ、巻き込まれては御免だと判断したのかそろりそろりと離れて距離をとる。


「いい度胸してるね。そんなに柱の僕を怒らせたいのかな?それに君がなまえの事を語る資格は無いよ。」

青筋をピクピクと痙攣させている無一郎。

え、もう既に怒ってますよねと喉まで出かかった言葉を飲み込んだ善逸。
助けを求め周りを見れば離れている炭治郎達と目が合った。



スーっと深く呼吸をする音が聞こえたかと思えば


ー霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞ー



スローモーションの様に刃が自分に向かってくるのが視えた。







あ。終わった…俺の人生終わったよ。


心の中でそう思う善逸であった。




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