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意地悪なキス



『……あぁー〜〜暇。』

宿の部屋でポツリと呟くななし1
ベットに大の字で寝転び、ただただ天井を見つめている

同じ部屋に八戒が居るものの、ソファーに座り、読書に夢中で全く相手にしてもらえない状態だ

隣の部屋には悟浄や悟空が居るのだが、ななし1は部屋を出ようとはしなかった

それは、ななし1が八戒に想いを寄せ、叶ったばかりだからだ
彼氏彼女の関係になり、やっと二人部屋が巡ってきた
ここで隣の部屋へ行き、甘い時間を過ごせるチャンスを逃す訳にはいかないのだ

かと言って、何か会話をする訳でもなく、お互いに自由時間として使う今


沈黙がずっと続いている


ななし1は起き上がり、意を決して八戒の隣へと移動した
ソファーに体操座りすると、ぎこちなく前髪を指で弄る

八戒は相変わらず、ななし1になんてお構い無しに読書に夢中だ
ちらり、と時より八戒に視線をやれば、整った横顔が目に写る
見れば見るほど整った顔立ちに、ななし1の胸がと きめいた


『………あのさ、八戒、その本…面白い?』
「え、えぇ…ななし1も読みますか?」
『……う〜〜ん……やめとく、』
「そうですか?」

『…………………………………。』
「…………………………………。」


頑張って声をかけた会話は、10秒ももたなかった
ガクリとうな垂れるななし1

そしてまた沈黙が続く


ななし1は再度、八戒をちらりと見る
八戒の視線は既に本に引き戻されている

自分も、もっと見てほしい。

八戒の読んでいる本にまでヤキモチを焼きそうになる
窓から差し込む太陽の陽気な光とは裏腹に、ななし1の心はモヤモヤと曇っていく

そのまま目を閉じて、自分の膝上に頭を預けた


(何やってるんだろ……、隣の部屋行こうかなぁ……けど、ここで諦めたらダメな気がする!)


ななし1は大きく深呼吸をする
ここで引いてしまっては、二人きりの時間は無くなってしまう

向こうから来ないのであれば、自分からいくしかない


『ねぇ、八戒!本ばっかり読んでないでっ、おわっ、』
「えっ、……!」

自分の心に勢いをつけ、八戒に引っ付こうとした瞬間ななし1はソファーの窪みで足が滑り、そのまま勢い良く八戒の方へ飛びかかってしまった

八戒の読んでいた本が、床へ落ちる



『……イテっ、…!』
「どうしたんですか……、」

ななし1は、八戒を押し倒すような形で倒れ込んでいた

『……いっ、あ…ごめん!い、今、退くから、待って…』


ななし1の想い描いた作戦では、八戒に甘えるように沿い寄る事
本よりも自分に構ってくれる事が出来れば上等だったのだ
しかし、実際は八戒を押し倒し、彼はキョトンとした顔でこちらを見ているではないか

ここまでするつもりが無かった故の恥ずかしさから、ななし1は目を泳がせる

ななし1が八戒の上から退こうとした時、スルリ、と八戒の手がななし1の頬に伸びた
そのまま頬を親指で撫でられ、突然の事にななし1は余計に驚いた

『……え、…は…八戒、?』
「ななし1、目、閉じて下さい。」
『えっ……、ちょ、ちょっと…!』

八戒は空いている腕で体を少し起こすと、頬を撫でる指でななし1の顎をクイっと持ち上げる
八戒の顔が近くなると、ななし1はキスをされると思い、目をギュッと固く閉じた


チュッ、音を経てるリップ音


しかし、ななし1の唇に八戒の唇が重なる事はなかった
ななし1の唇には、それ以外の感触があったのだ

ななし1がゆっくり目を開けると、目の前には八戒の顔
恐る恐る口元に視線を下ろすと、ななし1と八戒の唇の間には八戒の親指があった

ななし1の感じた感触は、八戒の親指だったのだ

『……ッ、………!!』

八戒からキスをされると思っていた分、想定外の出来事にななし1は顔を赤くさせてのけ反った
そんなななし1の反応を見て、八戒はクスクスと笑う

「ななし1がこんなに大胆だったなんて…知りませんでした」
『………なっ…!』


(構って欲しそうにしていたのは気づいていたんですが…、これは予想外でした)


そう耳元で甘く囁かれた言葉に、ななし1の頬はさらに赤く熱をもつ

窓から降り注ぐ太陽が、ユラユラとななし1の背中にも熱を持たせた



END

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