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恋の始まりは突然に


サイドテーブルに置かれたランプからはオレンジ色の光がこぼれている
それは、二人がいる部屋を優しく包み込むようだった。

『…………さ、さんぞ……?』

ななし1は、先ほどからジッとこちらを見つめる三蔵に、気まずさを感じて声を掛けた

「……お前は無茶をしすぎだ」
『え、あ、これ?』

目が合わない三蔵の視線と言葉に、ななし1は自分の頬を指で撫でた
つう、と赤い線を描くそれは、ナイフで切られたような切り傷。昼間の戦闘で負った傷だ


『大丈夫だよ。八戒にちゃんと消毒もしてもらったし、傷跡も残らないと思うよ?』
「…………少し黙れ。」

頬に当てていたななし1の指に、三蔵の指が絡む
真っ直ぐに見つめる三蔵のアメジストの奥に、動揺している自分の姿が映った


『ちょ、ちょっと、三蔵?』
「黙れと言っただろ。今すぐこの口を塞がれてぇか」

三蔵の顔が急に近くなる
ななし1は反射的に後ろに下がろうとする
しかし、三蔵の腕がななし1の腰をしっかり抱えている為、思うほど下がれなかった

「どうした。顔が真っ赤だぞ」
『さ、三蔵が近いからでしょ、離してよ!』

離れようと三蔵の胸を押すが、ビクともしない
この細い体のどこにそんな力があるのか?と不思議に思う程だ

『どうしたの?なんか三蔵らしく……っ!!』

黙れと言われても、いつもと違う雰囲気や恥ずかしさに口が止まらない
それを見兼ねた三蔵は、自分の唇でななし1の口を塞ぐ

開いた唇から簡単に舌が侵入し、ななし1は驚き身体が跳ねる
逃げ回る舌を三蔵の舌に絡め取られ、快楽を与えられるのだ
ななし1は三蔵の舌に応えるように、ぎこちなくも自らの舌を動かした

『……んっ、…ぁん……っはぁ、……んぁ…』

三蔵は満足したかの様に口離すと、お互いの口に銀色の糸が繋がる

三蔵のアメジストの瞳が、ななし1の瞳を捕らえて離さない
そして、薄い唇でこう囁くのだった

「一度だけ言ってやる。ななし1、お前が好きだ。」





ーーーーガツンッ!!!


『………ぅはっ?!』

大きな音に、ハッと目を覚ますななし1
音のした方を見れば、寝ぼけた悟空が隅に置いてあったテーブルを蹴飛ばしていた


ななし1は先ほどの夢を思い出し、頬に手を置いて顔を赤くさせる

(何、さっきの夢……。ヤバい、ヤバい、三蔵の顔見れないよ……。)


「………もう起きたのか?」
『わぁっ、さ、三蔵……おはよう。……め、珍しく起きるのが、早いね!』

横から突然、聞こえてくる夢の主に驚くななし1

「…………どうした。顔が真っ赤だぞ」

スーっと、頬に伸びる三蔵の手
ななし1は夢と同じ言葉に驚き、目をパチクリさせる
一つ違う事と言えば、三蔵の伸びた手がななし1の頬を摘んだ事だ

「………ヨダレ。汚ねぇーな。」
『………………はひ?』


三蔵の言葉から数秒後『嘘、やだ!』と慌て、口元を隠す様に手で拭くななし1

そんなななし1の必死な姿に、ククッと喉を震わせて三蔵が笑う
滅多に聞かない三蔵の笑い声に、ななし1の手は止まり、三蔵を見る

目が合えば、三蔵はななし1の髪をクシャクシャと撫でた


「フッ…冗談だ。あと数時間もすりゃ、静かなコイツらが煩くなる。もう少し寝るぞ。」
『……そ、………そうだね、』

また布団へと戻る三蔵の背中を、ななし1は見つめる
未だに静まらない心臓の鼓動が彼に聞こえない様に、自分の胸に手を当てた


ななし1はこれが恋の始まりだとまだ知らない






END

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