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会えない日々



鉄の扉をノックし、頭を下げて事務所に入る
必要な道具を所定の場所に返してタイムカードを切った

『お疲れ様でしたーっ!』

社員に挨拶をして事務所を出ようとするななし1は、一人の社員に手招きされ引き止められる

なんだろう?と思いながらななし1は社員に近づいた

「あ、ななし1さん、ちょっといい?」
『どうしました?あ、明日は休みだからって残業はしませんよ?タイムカード押しちゃったし。』
「それは残念だ。じゃなくて最近、この辺に変質者が出るらしいから気をつけてね!」
『……はい、(八戒じゃないよね?)』

気をつけます!社員の言葉に軽く耳を傾けたななし1は、いつもの様にロッカーへと向かう

ロッカーからケータイを取り出して見れば、悟浄からメールが届いていた
"マンション下で待ってる"
ななし1は急いで荷物をまとめると、職場を出た


マンション前に着くと悟浄はバイクに腰掛け座っていた
しかも、クリスマスでも無いのにサンタのコスプレをしている
その姿は全身赤で少し可愛く可笑しく見える


『悟浄、どうしたの?』
「いんや、この時期は仕事と連れに頼まれたバイトが重なっちまってなぁ…なかなか逢えねーんだわ、毎年の事で断れなくてよ。ななし1、悪ぃな。」

今もバイトの途中なんだわ

サンタのコスプレはそのせいか、と笑うななし1
悟浄は目を逸らして恥ずかしそうに頭をかいた

『大丈夫だよ。それより身体壊さないでね、そっちのが心配だよ!』
「そういや、部屋の明りがついたままだったぜ?……誰かいるのか?」
『……!! え、あ、消し忘れたかも!』
「ま、防犯にもなるし、いーんじゃね?」

悟浄は顔を近づけキスをした
じゃあな、とバイクのエンジンをかける
ななし1は悟浄を見送り自宅に帰った


ーーーーーーーーーーーーーー


あれから、一週間が過ぎた

悟浄とはあれ以来会っても居ないし、連絡もメールでのやり取りがほとんどだった
それも1日に2〜3通がいいところ

今日も仕事終わりに携帯を見るが、いつも通りの待ち受け画面があるだけだった
メールを期待していただけに、ななし1はロッカーで大きくため息をつく


(……なんか、寂しいなー……。)


着替えも終わって、寒空の外に出る

時計は深夜3時を過ぎた頃
今日はポップの張り替えやら広告の差し替えなどに時間がかかり、いつもよりも帰りが遅くなったのだ

白い息を吐きながら手を摩りながら歩く
いつもの慣れた帰り道を、いつもの様に歩いて行く
すると、後ろから声をかけられた

「あの…す、すいません…ハァ、ハァ、よかったら、パンツ、見せてもらって…いい、ですか?」

『……ッ!?』

小太りの中年男が息を荒げて、ななし1の後を付いて来ては、気色悪い視線でななし1を見つめて居た
突然の事にななし1は言葉をなくす
背筋にゾクゾクと嫌な寒気が走った

怖くてその場を後退りをし、逃げるように離れる

無我夢中で走っていたななし1は限界まで息が上がったところで足を止めた

息を荒げ、それでも早歩きで家までの道を歩きながら、カバンから携帯を出して悟浄に電話をかける
何回かコールした後に不在のアナウンスが流れた


(なんで出てくれないの?!悟浄助けてッ!!)


ななし1は恐怖と不安から涙が溢れる
震える手でツーツーと終話音の鳴る携帯を握りしめる

先程の変出者が居ないかと気にしながら歩くと、トントンと肩を誰かが叩いた
驚き振り向くと、さっきの男が薄気味悪い笑顔で立っているではないか

「ハァ、ハァ、に、逃げないでよぉ〜…ハァ、ハァ、急に走り出すから、ビ、ビックリしたじゃないか」

『ッ!!!!!……ぁ、や、来ないで!!』

ななし1は恐怖で足がすくむ
逃げようとしても上手く足が前へと進まずしりもちをつく

『お願い…来ないでッ!……悟浄、助けて……』

ななし1は腕で頭を守るように抱えこみ、震えていた
そしてドンッ、と押し倒されななし1の上に男が乗る
一瞬何が起こったのかわからなかったななし1だが、
背中に道路の冷たさが伝わってくる事で押し倒された事に気づいた
より一層の恐怖から、ガタガタと寒さとは違う震えが止まらない

『…や、やだ、やめてッ…!!』



すると、いつもの聞き慣れた声が頭の上から聞こえた
頭を抱えているせいで彼の顔は見えないが、少し焦っているような怒っているような感じがした


「貴方、何してるんですかッ?!彼女から離れなさい!」

八戒は男の胸ぐらを掴む

「路上で女を襲うとか、なかなかいい趣味してますね?」

警察行きますか?と八戒の言葉に、男は罰の悪そうな顔をして後ずさる


「……チッ、ま、待たね」

足音がだんだん離れて行くのがわかった
そしていつもの優しさ声が聞こえる

ななし1は腕を解いて八戒を見上げる

「大丈夫で……え、ななし1?!どうして?!」

驚いた顔を見せる八戒
ななし1の帰りが遅かった為迎えに行く途中だった

「怪我はありませんか?!」

『……っ…、……はっかぃ…』
「もう大丈夫ですよ?一緒に帰りましょう」

八戒はななし1の背中を撫で、ゆっくりとななし1を立たせてマンションへと戻った



まだ震えるななし1を何とか部屋に入れソファーに座らせた
八戒は何か温かいものを入れようとキッチンへ向かおうとすると、服をグッと引っ張られる

振り向けば、涙目で八戒を見つめるななし1の姿

『行かないで…!お願い、今は側にいて…』

消えそうな声で訴えるななし1に八戒は隣に座り抱きしめた

「大丈夫です。僕はずっと側にいますから…」
『……うん、……っ、』

安心感や八戒の優しさに緊張の糸が切れ涙が溢れる
ななし1は八戒の胸元で、声を荒げ泣きじゃくった

『…っ、こ、怖かった…ッ、……はっ、かいが……来てくれなかったら……あたしっ、……』

泣きじゃくるななし1が落ち着くまで、八戒は優しく何度でも背中をさすってやる


どれくらい経ったか、ななし1は落ち着きを取り戻してきた
嗚咽で激しく上下していた肩も今は規則的に動いている

『……八戒、もう…大丈夫。ありがとう、』

ななし1は八戒の胸を押して離れる
下を向いていたななし1がやっと顔を向けた

泣いて目を真っ赤にして、笑顔なのだが表情がどかこか悲しそうなななし1を見た八戒は手を伸ばしてななし1の頬を撫でてそっと顔を近づけ

思わずキスをしてしまった

『……っ、んぅ、……は、八戒?!』
「今は僕だけを見て、僕だけの事を考えて下さい」
『え、ちょっ、……んっ…はぅ、ぁ…。』

ななし1は八戒の唇から逃れようとするが、腰に手を回されているためにそれは出来なかった

『……ぁっ、…ん、はっぁ、……だめ…。』

ななし1の苦しそうな吐息と、八戒の荒い吐息だけが耳に響くような感覚でななし1は八戒の唇に溺れていく
八戒の熱い舌がななし1の舌を絡めとり、口内を犯していく様だった

ななし1は八戒の唇に翻弄されて頭がクラクラしていた
そのまま体に力が入らなくなり、八戒の体に体重を預けてしまった
もちろん八戒はななし1を受け止めるのだが、それと同時に唇が離れてしまう

「………すみませんでした。僕としたことが取り乱してしまって、ななし1には悟浄がいるのに…。」

『………八戒。』

冷静に欠けました、と謝る八戒に、ななし1は何も言えず顔を赤くするだけだった

「……さて、もう夜も遅いですし寝ましょう。明日も仕事ですよね?」
『………うん。』
「明日から、しばらく送り迎えしますね!」
『…いや、でも…』
「また今日みたいな事があっても僕は助けれる保証はありませんよ?」
『……う"ぅ…………お願いします。』
「これで決まりですね。」
『………おやすみ。』



ーーーーーーーーーーーー



ななし1はベットに入り目を閉じた
だが、瞼の裏に今日のあの男の顔が浮かんでくる

『……っ、……。』

ななし1は何度も寝返りを打っては、気を紛らわす
静かな部屋に時計の秒針だけが響く


ーーコンコン

「ななし1?入っていいですか?」
『え、あ、うん…どうぞ』

大丈夫ですか?と声を掛けて八戒はベットの縁へと座る

『うん……ちょっと大丈夫じゃないかも、』

ななし1はへにゃと笑った
八戒はそんなななし1を見つめ、優しく頬を撫でた

『………八戒?あのさ、あたしが寝るまで……その、えっと、……側に居てくれないかな?』

ななし1は照れた様に目を泳がせて、布団を手繰り寄せれば口元を布団で隠す

「……いいですよ。」
『ありがとう』

八戒はななし1の頭を優しく大事そうに撫でるのだった




しばらくすると、スースーと規則正しい寝息が聞こえてきた
八戒はもう一度ななし1の頬を撫でて、ゆっくりとななし1のベットに入る

きっと明日になれば、ななし1の驚いて目を丸くした顔が見れるだろう。八戒はそんなななし1を想像してクスクスと笑った

そして頬にキスをした


一方、リビングに置いてあったななし1のカバンの中で、携帯が震えていた

着信 悟浄



to be continued…


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