辺りの草花が風に乗って優しく揺れ動いた。 草花同士が擦れ合い、一つの音楽を奏でているように聞こえる。 空は暗い青に染まり、満天の星と月が空を始め大地を、世界全体を照らしていた。 そんな中、草花が奏でる音楽とは違う別の音楽が辺りに響き渡っていた。 その音楽の正体は、紫の衣を纏い、側には装備品であろう二つの剣を置いていた青年によるものだった。 青年――勇者イデアは目を閉じ、優しい声で歌声を辺りに響き渡らせている。 いつの間にかそれを聞きに来た動物達が、青年を囲うように集まっていた。 傍に寄り座り込むと、動物達は次々とイデアの歌声に耳を傾ける。 そうして、最終的には夢の世界へと旅立ってしまうのだった。 イデアが歌うのを止めてしまう程の事が、暫くして起きた。 ぽかんと口を開けながらイデアが向いた方向は、自身の膝元。 そこには、彼よりも小さな少女が幸せそうな顔をして眠っていた。 「……イ…デア……」 少女の寝言だった――イデアの歌声を止めた原因は。 それはあまりにも突然で、イデアの鼓動は強く高鳴った。 少女、ベロニカの頭にイデアはそっと手を乗せると、起こさないよう優しく撫でる。 “イデアの歌が聴きたいわ” それは、ベロニカが少し前イデアに告げた言の葉だった。 イデアは少々驚いた様子を見せたが、ベロニカの必死な懇願にイデアはあっさりと負けてしまった。 彼は少々恥ずかしそうな様子で、揺らめく炎を前に丸太の椅子に腰かけ――口を開いて歌い始めた。 ベロニカは、イデアの歌声に瞬く間に引き込まれた。 彼の祖父であるロウとの連携技で二人の歌声は美しいものだと感じていたが、それとはまた違った美しさがあったのだ。 イデアと向かい合っていたベロニカだったが、彼女は歌う青年の隣へと座ると、目を閉じて歌声に耳を傾けた。 彼の歌声以外は全てシャットアウトされ、優しく美しい歌声のみが彼女の頭の中に響き渡った。 ――そうして時間が過ぎ、彼女は青年へと寄り添う形で意識を手放した。 そのままの体勢では辛いだろうと、イデアはベロニカの上半身をゆっくりと倒し、頭を自身の膝元へとゆっくり乗せた。 イデアの歌声にすっかり聞き入ったベロニカは、夢の世界へと旅立ってしまったのだった。 その夢の世界にイデア自身がいるのが、ベロニカの寝言から発覚した。 イデアは嬉しく思い、思わず歌っていた口を止めてしまったのだった。 『……おやすみ、ベロニカ……』 ベロニカの額に、イデアの唇が優しく当てられた。 そうしてベロニカの顔を再び見た時、彼女は微かに笑ったように見えた。 辺りに再び、勇者の歌声が響き渡り始めた。 寄り添って眠る二人の姿と沢山の動物達が眠る姿に、テントから起き上がってきた一行が驚く事になるのは翌朝のお話。 2018/3/1 連携技、ユグノアの子守歌から書きたいと思ったお話。 イデアとロウおじいちゃんは歌がとっても上手なんだろうなぁと……。 [*前] [TOPへ] [次#] |