雑記◎好きなものとか、短いお話とか日々のことを色々と。 B 昼間にオレが考えた作戦はこうだ。 その一、まずはみんなが寝静まった深夜に厨房に忍び込む。 その二、ちゃっちゃっとタイガ様への手作りチョコを作る。 その三、何食わぬ顔でそれを渡して、タイガ様の反応を伺う。 でも、そんな簡単に事は上手く運ばない。 「なんで上手くいかねーんだよ…」 買い出しを頼まれた時にこっそり板チョコを買えたのも良かった。ちゃんと誰もいない厨房に忍び込めたのも良かった。 だけど、問題はそこからだった。 ――チョコレートってどうやって作るんだ。 「ハァ、まじ意味分かんねー…」 電子レンジに包み紙のまま板チョコを入れてみたらなんか変な油が浮いて、そのままデロデロに溶けて一枚まるまるダメにした。 今度はチョコを鍋に入れて何となく一緒に水も入れてみたら、なんか鍋いっぱいに変な汁ができた。飲んでみたら、やっぱりまずかった。 三枚買った板チョコのうち、二枚をダメにした。 残るは一枚。もう、このまま渡してもいい気さえしてくる。 だけど、やっぱりオレが渡したいのはひと手間加えた手作りのチョコレートだ。 こんなことなら、ウミみたいにちゃんとヤマさんにチョコ作りを習うべきだった。そう思ってみても、オレのこの性格じゃ素直にそんなこと出来るはずもない。 ――可愛気もなくて、素直じゃなくて、変に意固地で。 こんな性格にも上手くいかないことにも嫌気がさして、思いがけず目頭が熱くなる。 オレはタイガ様に今までもらった感情のぜんぶをあの人にそっくりそのまま返したい。 オレはオレと同じようにタイガ様にオレを好きなって欲しいし、喜ばせてあげたい。 そう心の中で豪語してみるものの、無力な自分が余計あらわになるだけで余計悲しくなってくる。 「…やめよっかな」 ――いっそのこと、ぜんぶを。 だけど、その声に反応するのはもちろん誰もいない。 そんなの当たり前のことで、でも、静まり返った厨房では余計にオレの心を冷やすだけだった。 *** 続く 2014/02/23 遅いVD小説A ――とは言え、オレは今まで菓子作りなんてしたこともない。 ましてや、女の子に混じってチョコレート売り場に行く勇気もない。 「…どうっすかな」 屋敷の廊下の掃除をしながら、頭の中はチョコレートのことでいっぱいだ。 ウミはどうやらコックのヤマさんにトーマ様へのチョコレート作りを手伝ってもらっているらしく、連日チョコの匂いをプンプンされている。そんな匂いが、余計オレを急かす。 どうにか、誰にもバレることなくタイガ様にチョコレートを渡せればいいけど…。 でもタイガ様、手作りチョコとか好きそうだなぁ、とか。どうせ渡すなら気合いが入ったものがいいなぁ、とか。 机上の空論とはよくいったものだ。 「あれ、朝人なにしてるんだ?」 だけど、そんなことを考えていると、当の本人が急に顔を出すもんだから驚く。 「…っ、なにって、掃除だけど」 「そっか。いい子」 タイガ様はご褒美と言わんばかりにオレの頭を優しく撫でる。 そんなことされたら態度に出ちまいそうだから必死に赤い顔を隠すけど、タイガ様の前ではそんな行為、無意味だ。 「……タイガ様ってさぁ」 「ん?」 「……なんでもねぇっ!」 甘いもの好きだよな、とか。オレからチョコ貰ったら嬉しい?とか。 本当は聞きたい。 だけどタイガ様の驚く顔も、喜ぶ顔もぜんぶオレのものだけにしたいから。 「……首洗って待ってやがれ」 「え!?何が!??」 オレは決めた。 ――チョコレートだろうがなんだろうが何だろうが、オレがサイコーの思い出をタイガ様にお見舞いしてやろうーじゃねーか。 *** 続く 2014/02/23 遅いVD小説 「もうすぐバレンタインですよね。朝人くんはタイガ様にチョコレート、差し上げないんですか?」 「……は?」 時は二月の中頃、目の前のウミは鼻の頭にチョコレートを付けながらそんなことを言った。 …いや、まず言いたいことがたくさんあるんだけど、そこはひとまず置いておくとして。 「…オレが?タイガ様に、チョコレートを??」 「はい。だって、バレンタインは好きな人に思いを伝える大切な日なんですよね?」 動揺しすぎて半笑いで尋ねるオレに、ウミは至極真面目な顔でそう答える。 まるでその行為が当たり前と言わんばかりだ。 「……ないない。ありえないだろ、ウミ」 「どうしてですか。朝人くんはタイガ様が好きじゃないんですか」 「いや、そういうことじゃなくて…」 「タイガ様もきっと喜ばれますよ」 「…う、うん」 引き気味で返事してしまったものの、そんなウミの言葉がオレの心に引っかかる。 ――もし、オレがタイガ様にチョコレートをあげたら。 そしたら、タイガ様は喜んでくれるんだろうか。 *** 地味に続きます。 2014/02/23 チェリピッキン!チェリピッキン!チェリピッキンデイズ! 2014/02/21 |