咲う花 - epilogue
条件付きとはいえ、女帝から諾の返事を得ることができたのはもはや奇跡と言ってもいい。それを望んでいたにも関わらず中将は耳を疑ったし、クレオメも常の笑顔を引っ込めて目を丸めた。
よほど何か、予想だにしない何か特別な力が働いたらしい。艦の上の二人にそれはわからなかったし、わからなくても悪い結果ではなかったのだから彼女はすぐにまた柔らかな笑みを浮かべ、よかったわ、と呟いた。こちらに投げかけられたものだととらえた中将はまったくだ、と返し、先ほどまでの緊張が嘘のように肩の力を抜いてため息をつく。あとは七武海の無茶な要求がどれほど通るか、というところだった。こればかりは彼の手を離れた、中将の権限外のことなのだから、もうそれほど頭を痛める必要はない。

「ようやっと…戻れる見通しがついた」
「私も早く帰りたいわ…」
「だろうな」

石のままの部下たちを見回し、やれやれと呆れた声を漏らしたモモンガは、わずかな違和感の残る右手を無意識に閉じたり開いたりしながらベンチに腰を下ろした。
帰る、帰られる。そのためであればどんな手でも尽くそうというのが彼の原動力であったし、何があってもなすべき約束であった。
それを、クレオメは当然知る由もなかった。しかし彼がどうあっても戻りたがっているのは理解できたし、彼女もまたそうだった。男はみな保菌者なのだ。これ以上ここに居たら、ひとりでは抗えないものに蝕まれる。

「少しでも…抗体を持っていてよかったわ…」
「…抗体?」
「羨ましいけど、私は帰る…平穏で安全なあの島へ」

ずいぶん前に一度患った病のことを、今日ほど有難く感じたことはない。それに、ああ、だから私がここに残されたんだわ、きっと。妹君もひとの悪い、いいえ、的確な判断でした。

彼女の言葉の端々に疑問符を浮かべる男を見やり、クレオメはにこりと微笑んだ。まるで花が咲くようにわらうひと、という声が聞こえた気がした。それは目の前の男からではなく、はるか彼方、いくつもの海を越えた向こうからであった。

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