君がいる
彼の父はある大型商船に属する商人のひとりで、彼が誕生するずっと前から方々を旅していた。
ほかの島で珍しい品々を見つけては買い付け、また出航前に仕入れた自国の製品で他国の同業者と取引をする。
そのためか非常に陽気な人柄で、誰とでもすぐに打ち解けるような気さくな男だった。
そんな父が長い船旅から戻ってくる時期は、その場にいるだけで誰もが、家中街中がお祭り騒ぎのようだった。

母はその夫に比べるとやや物静かな印象を受けるが、決して内に閉じこもるようなたちではなく、明るく笑顔の絶えないひとだった。
彼が八つのときまでは家に入っていたが、船の人手が足りないと請われて彼女もまた旅に出た。
そもそも夫となる人との出会いがその船の上での出来事で、厳しい条件下での労働も全くいとわない彼女はいずれはそこに戻りたいとも望んでいた。
何より新しいものと海が好きだった。

だからペルは幼い頃からひとりだった。
船に乗るには若すぎたし、父母の不在に耐えられないほど子どもでもなかった。

とは言っても完全に孤独だった訳ではない。
手伝いの者がひとりかふたりは出入りしていたし、都で仕官している伯父が顔を出してくれることもある。
そして何よりも彼にはティティがいた。

彼女はペルより5歳年上で、町の子どもたちの中では一番の年長者だった。
あとはまだよちよち歩きの赤ん坊ばかりで、ペルとティティは二人でよく過ごしていた。
市へのお使いに行っては寄り道をしたり、水汲みの手伝いでオアシスに行っては泳いだり。砂嵐が過ぎたあとの片付けも二人にかかれば何でも遊びになった。
まるでほんとうの姉弟のようで、近所でもその仲の良さは有名だった。

「ねえ、ペル?大人になったら何になりたい?」
「船乗り!父さんと母さんと遠くの国に行くんだ」
「えー、アラバスタから出てっちゃうの?」
「なんだよ、いいだろ?ティティは何になりたいんだ?」
「んー、じゃあ私はペルの船を襲う海賊!島から出さないように邪魔するの」
「なんだそれ」

馬鹿だなあと言って、馬鹿って何よと言い返す。
やり取りだけ聞いていると喧嘩でもしているのかと思われそうだが、本人たちはただじゃれあっているだけだ。

平和な西の地での話だった。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -