天体の位置を変える悪戯


 三年と、実力を認められている一部の二年という自転車部の"花形"メンバーたちの中心で笑っている人物を見て、荒北は目を見開いた。

 男臭い部室にはまるで不釣り合いな、制服の女子四人。
 彼女たちを囲む上級生たちは見るからに舞い上がっていて、和気藹々と呼ぶには違和感がある。
 さすがにレギュラーメンバー程になれば女子慣れしているのか場慣れしているのか爽やかに振舞っているものの、他のメンバーたちといったら酷いものだ。けれど、いつもに増してカクカクとブリキのように動く上級生や、明らかに声色高めな上級生たちを笑うような余裕は荒北にはない。

 むさい男どもに意識されていることなど承知の上で、余裕の微笑みでそれを受け止めいなす女子陣の、その一人に見覚えがありすぎるのだ。ただ……自分より背の高い男たちに囲まれてにこやかに笑っている姿はあまりも自分が知っている彼女の姿と違いすぎて……つまり、わけがわからない。

「なァ、なんであいつがここにいるんだ?」
「……ああ、田中さんか。彼女も放送部だからな」

 同じクラスだろうに、知らなかったのか?
 横に立つ福富にヒソヒソと尋ねれば、心なしか呆れたような口調で返された。

「知らねェよ。だいたい、田中が放送部って……ウソだろ。あんなビビリのくせに、こんな男所帯相手に出来るたァ思えねぇぞ」
 いつもオレの隣の席でビクビク泣きそうな顔してるような女だぞ。
 そう続けようとしたところを、咎めるような福富の視線に遮られる。
「それでも、彼女は何度もああして練習を見に来ている。オレたちが三年の時、頼りに出来るとすれば……彼女だ」
「ちょ、『頼りに』って、放送部ってだけだろ!? なんだよ、何かあんのかよ!?」
「さあ詳しくは知らん。ただ、オレたちは入部最初のミーティングで『放送部だけは敵に回すな』と教えられた」
 おいおい、なんだそれ。意味わかんねェんだけどォ?
 けれども詳しく尋ねようにも、トレーニングを始めた福富の視線はもう荒北には向かない。
 釈然としないものを感じながら、それでもこれ以上は無駄と諦めて荒北もペダルに足を置き直す。

 まあ、明日になれば……また嫌でも隣に居るわけだしな。
 むしろ当面の問題は、彼女に怯えられないように話しかける自信も、泣かれずに話し続ける自信も、どちらも全くないことだった。



(タイトル:otogiunion)
(親しくない女子は"さん"付けの福ちゃんと、親しくない女子でも呼び捨ての荒北)

 

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