■永遠とわたし
▼『永遠とあなた』(1部ディオ)の続き
私の神は、永遠に私を闇へ逃がした。
星に見つからない、純粋なる闇に。
神よ、神よ、
今どこにいるのですか。
この問いかけを何度、させるつもりですか。
神よ、神よ。
十年過ぎても帰ってこない。
神よ、神よ。
五十年過ぎても帰ってこない。
嗚呼、私の愛しい神よ。
あと何年、私は独りで過ごさねばならないのですか。
「……DIO様?」
もう月日を数えるのをやめた頃、私は唐突に呟いた。
振り替えるも、闇に浮かぶ満月以外に、私の背後には何もない。
だけど、感じた。
私の愛するDIO様が、ついに、目覚めたのだ。どこか、遠くの地で。
「嗚呼、DIO様! やっとお目覚めになられたのですね! やっと、私を迎えに来てくださるのですね!」
暗闇の中、誰もいないところに向かって恍惚と叫ぶ私を、今日の『食料』たちがただ、恐ろしげに見ていた。
考えてみれば、私はDIO様と一日しか共に過ごしていない。神は『戻ってくるまで、君はただ待っていればいいんだよ』と言ったきり、消えてしまった。
それでも、彼が私を置いて死んでしまった、とかだったり、彼が私を捨てた、などとは全く思わなかった。神は決して、私に嘘をつかない。
だから私は、ひっそりと生きるために時たま『食料』を手に入れる以外に、何もせずただ待っていた。やろうとすればこの、あの頃からずっと根城にしている『ウィンドナイツ・ロット』を征服することも、あるいはこの年月でイギリス中を支配できたろうに、私はそうしなかった。それは私の望むところではない。私はただ、待つだけ。『食料』たちには気の毒だけれど、私の生命はDIO様のもの、勝手に絶やすわけにはいかないのだ。悪く思わないでね。
DIO様が目覚めた、と確信を持ってから、随分たった。恐らく年単位で時間が流れていただろうが、かまいやしなかった。私は既に、確か八十年以上は待っている。それ以上正確に言うことはできないが。
「……ナマエ」
ゾクッ。私の身体が震えた。そうだ、私が、この甘美な声を聴くのは、ほぼ、百年ぶり、だ。
「……DIO、様」
窓の奥に、月光を背にした、私にとっての『神』が表れた。あの時と変わらない、輝かしい金髪。鋭い瞳。色気の漂う唇の中から覗く、尖った牙が二つ。
ただ、彼の首とその下は、あの時と異なっていた。なにより、首と身体を繋ぐところに、繋ぎ目のようなものができている。
DIO様がこの百年、どこで何をしていたかなんてどうでもいい。私の元に帰ってきたことが重要である。ただ……本来の身体とは違う身体になっているのは、少し気になった。
「……ナマエ。まさか、本当に待っててくれているとは思わなかったぞ」
もう一度私の名を呼ばれ、確かに身体に電流が流れた。誰かに名を呼ばれたことすら百年ぶりだというのに、DIO様にこれ以上名前を呼ばれたら、感電死してしまうわ。
「……私は、DIO様のためなら何千年でも待ちますわ。私の身体は、あなたのものですもの……」
恍惚。
今の私を形容する言葉は、それ以外に思い付かなかった。続けて、私は言う。
「……DIO様。首から下は、どうされたのです」
これか、とほんの一瞬だけDIO様は顔を顰めた。だが、やがて笑って言う。
「宿敵の身体を、奪った。それ以外の何物でもないさ。さあ、ナマエ」
突然名を呼ばれ、誤魔化されたのか? と考える暇もなかった。もう、既に昇天してしまいそうだというのに、なんと、私の神は、嗚呼、なんてこと!
「……でぃ、お、様」
私の身体に手を伸ばした。そして、抱擁する。
何も考えられない。今、何が起こっているの? 吸血鬼同士の身体が触れあう、冷たい温もり。これは一体何?
「人間の女共との結果も気になるが……吸血鬼同士が交わった結果はどうなるのだろうな、ナマエ」
私の身体に、一体、何が起こっているの? わからない。頭が、働かない。
「……DIO……様」
「いいや、そうでなくても……私はこの百年、お前のことばかり考えていた。ナマエ、今からお前を愛してやる」
その言葉を皮切りに、DIO様が私の唇に噛みついた。
そこから先のことは何も覚えていない、思い出せないけれど……畏れ多くも、私は幸せで、死んでしまいそうであった。嗚呼、でも欲を言うならば、DIO様自身の身体で愛されたかった、なんて。私も随分、我が儘になってしまったようだ。
「愛しています、DIO様」
私はなんとか、確かにここに存在する神に向けて、そう告げた。