妖縁 | ナノ

06


「玉藻、笑うな」

匂宮は玉藻を睨むように見た。

「ごめん…いや、確かにそうよねえ。兄者今どう見ても女の子だもんね…ぶふっ…」
「うるさい、今度は蹴るぞ」
「いやーん!助けてー!!兄者がいじめる〜〜!!」

玉藻は澪の後ろに回って、むぎゅっと抱きしめた。
ちょうど澪の頭が玉藻の胸の下に来る位置のため、澪は玉藻の胸の感触が直に感じる。澪は少し恥ずかしくなって顔が赤くなった。

「卑怯だぞ」
「うっさいわねー。妹を殴る最低な兄に『卑怯』とか言われたくない!」
「あ、あの…ちょ、苦しい…」

澪は玉藻の腕でジタバタ暴れる。
あまりに顔を胸の方に押し付けられると、うまく呼吸ができない。
玉藻は慌てて腕を離して、澪を解放する。

「ごめんね。大丈夫?」
「う、うん…」
「で、玉藻。お前なぜ妖狐の里からこちらに来たのだ」
「んふふ。クソ親父と喧嘩したからこっちに来たの。しばらく泊めて〜?」
「私が決めることではない、泊まりたいなら澪に聞け」
「泊まってもいい?あと散々からかっちゃってごめんねえ」
「…えと」
「いいよ〜って言わないと、もう一度むぎゅーってすーるーわーよー!」

困っていた澪を、再び力一杯抱きしめる玉藻。その力の強さに、澪は顔を歪ませた。


「ひゃー!!やめてー!わかったから!わかったからあ!!」
「はい、ありがとー」


パッと玉藻は手を離す。

「自己紹介しとくわね。私は玉藻。この匂宮の妹よ。よろしくねー!」
「よ、よろしく…澪です…」
「兄者と貴女の事、いろいろ聞かせてねっ。ふふふ、よろしくね澪」
「よ、よろしく…」


玉藻は、最初の印象と違っていたずらっ子なお姉さんのような雰囲気になった。笑い方とか仕草は匂宮と本当にそっくりだと思う。さすが兄妹。


「なーるほど、貴女達そんな事情があったのねえ。」

澪は玉藻を部屋に入れて、お茶を淹れた湯飲みを渡す。玉藻はお茶を飲みながら匂宮と澪の話した事情を聞く。

「まあ、義理事をしっかり守るのって…。
私の知ってる中じゃあ、兄者か夕霧(ゆうぎり)しかいないもの」
「ゆ、夕霧?」
「兄者の友達よ。医者と呪術関連に強い奴」
「へえ…お医者さん…」

匂宮の交遊関係はあまり聞いたことがない。

いろいろ突っ込んで聞いてみたい気持ちもあるが、匂宮が不機嫌そうな顔をしながら澪を見ていた。澪は話題を代えてみる。


「ところで、玉藻はどうして宮のとこに…?」
「クソ親父との喧嘩。勝手に見合いさせられたのと、相手が最悪だったの〜。もー本当にあの親父性格悪いわっ!」

玉藻はその時のイラついた気持ちを思い出したのか、床をどんどんと長い足で蹴りつける。

「み、見合い…」
「玉藻、相手はどんな奴だったのだ?」

匂宮が口を開く。
仮にも成立したら自分は義理の兄になるのだから、気になるのだろう。

「オカマ野郎だったわ」
「…」


肉体的な性別と精神的な性別が違う、性的指向が比較的社会的少数派な人達の事である。いわゆる、男の身体だけど心が女だったり、その反対もある。同性愛者も含まれる。

玉藻がお見合いで会った相手、というのは、たぶん『男性の身体だけれど女性の心を持つ人物』という者になる。匂宮は必死に該当する妖怪を探したが一人しかでなかった。


「その相手…惟周(これちか)か?」
「そうよ」
「…そうか。私は会ったことはないんだが…。どんな奴だ?」
「だから、カマ野郎って言ってるでしょ??まーじーでーきーもーいー!!」

玉藻が再びキーキー怒り出す。
澪はその様子に驚いたが、匂宮はいつもの事だとばかりにスルーしている。


「…ふうん。で、その惟周とやらに断りの返事とかは…」
「無視して来たから知らないわ。あとは親父がなんとかするでしょ!私は知らない〜!」


ぷん、と顔を背けて拗ねる玉藻。
二人のやり取りが兄妹らしくて微笑ましくていいなあと思う。
澪にも兄が二人いるのだが、年が10歳以上も離れている。
だからこそ、兄には甘やかされてばかりでこういう「友達みたい」なやり取りはしたことがない。

「澪、何故笑うのだ」


澪がにやにやしながら二人のやりとりを見ていたのに気づき、匂宮が不思議そうな顔で澪に問う。澪は慌てて、「なんでもないよ」と言う。


「なんだか、玉藻が来てからにぎやかだね。…こんなににぎやかなの初めて…!」
「そうー?」

玉藻はきょとん、としながら澪を不思議そうに見る。


「うん。凄く楽しい!」
「あら〜そう?じゃあずーっと住んじゃお」

玉藻がニコニコしながら澪に抱き着く。
匂宮がすかさず玉藻を澪から引きはがす。

「兄者、何すんの〜!」
「早めに出ていけ。家は近くに用意してやるから!」
「兄者ったら冷たい〜!!」


玉藻のぶーぶー文句言う声が、澪の屋敷に響いた。


prev / next
[ back to top ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -