妖縁 | ナノ

05


その女性は少しずつ澪に近づいてくる。澪は後ろに下がったがすぐ、壁に背中が当たる。その女性は澪の顔の横に左手を置いた。
に、逃げられない状況だ。


いわゆる「壁ドン」というやつ。
男の人にされたらドキドキするだろう、美人な女性にされるのもドキドキはするけども…今この状況でそんなこと、言っていられない。


「な、なんで貴女に言わないといけないの…?」
「あら、質問を質問で返さないでもらえるかしら」

その女性にぴしゃり、と言われて澪は口を紡ぐ。


「匂宮、いるんでしょ?呼んでくれるかしら」

その女性は澪が応えないのを見ると、手を伸ばす。
澪の頬に玉藻の手が当たりそうになる。指は整えられているものの長い爪が見え、尖ってはいないものの、やはり少し怖い。震える手で澪はその女性の手をバシっと叩いて、長い爪から逃れようとする。

「あら、痛い」

見ると、その女性の真っ白な手が少し赤くなっている。
澪の非力な力で叩いた部分だろう。その女性の目つきが若干攻撃的な色を帯びた。
澪は、屋敷のお部屋で爆睡してる彼に心の中で助けを呼びながら走る。


「み、宮〜〜〜っ!」
「あ、待ちなさい!!」

澪が逃げた方に、彼女も追ってくる。
かかとの高い靴で器用に走りながら、玉藻は追いかけてくる。カツカツカツ、と大きな音を立てて走るので、その音が澪にとっては恐怖でしかなかった。

澪は、匂宮が寝ている部屋の側まで来ると襖に手を掛けた。
開ける前に、澪の首根っこを誰かに掴まれた。爪が少し当たった為、追いかけてきた彼女の手だろう。

「捕まえた」
「ひっ!!!た、たすけ…!」

彼女に振り向かされて、少しイライラしているような金色の目が澪の目に映る。

「きゃっ!!」

しかし、後ろからバシッと鈍い音が聞こえる。
彼女は澪から手を離し、頭を抑えてうずくまった。


「い、痛っ〜〜何よもう!!」

その女性が涙目のままキッ!と後ろを睨むと、もう一発。
今度は拳骨でで頭を叩かれていた。拳を構えたその、小柄な影は。
女性が探していた人物であり、澪が心の中で助けを呼んだ匂宮だった。


「み、宮?!」
「澪。大丈夫か」
「寝てたんじゃ…」
「ああ、ちょっと喉が渇いて起きたところで、澪の姿がないのに気づいて」
「こ、怖かったよ〜…」


怖かった気持ちが、途端に安心に変わって澪は腰が抜けて座り込んだ。
またか、という表情で、匂宮は澪を立たせた。

「所で、お前ここで何しているのだ?玉藻(たまも)…」

匂宮は頭を抑えている女性に呼びかけた。

「いきなり殴るなんて酷いじゃないのお!兄者!!!」
「そりゃそうだろう?私の主に攻撃しようとしている者がいたら私は主を守らねばならん」
「だからって…力いっぱい殴るなんてぇ…最低だわ!」

玉藻と呼ばれた女性は、匂宮にきーきー言い返している。
匂宮は玉藻が言い返していても、そこまで気にしていない様子だった。


「あ、あの…宮…この女性は…」
「ん?私の妹の玉藻だ。一応実妹だ」
「い、妹…?」


澪は匂宮と玉藻を見比べた。
確かに顔のつくりはなんとなく似ている。色こそ全然違うけども…。
目元の赤い化粧は確かに、匂宮と同じものだ。

匂宮は「紺に近い黒」玉藻は「白」。
両親のどちらかに似た、という感じなのだろうか。


しかし、匂宮は見た目だと18歳くらい。玉藻は見た目だと23歳くらいだ。
普通なら玉藻の方がお姉さん、に見える。しかし、二人とも妖怪だ。
匂宮は見た目だけは若いが、年齢は玉藻より上なのかもしれない。


「私の本当の姿はまた別にあるのだ。
そちらだと、ちゃんと玉藻よりは年上の姿だ。なあ、玉藻」
「え?ええ。そうねえ…でも10歳くらいしか実年齢も変わらないし、正直兄妹というよりはほとんど同い年みたいなもんよ」

玉藻も頭を擦りながら言う。


「え、そうなの…??」
「何?」

しどろもどろに答える澪。
えっと、と言葉が詰まる澪に、匂宮は澪が「男性苦手意識」があるということを思い出した。

「えっ、っと…」
「まだその姿は見せておらぬのに、怖がられては困る」
「…ごめん」

匂宮の青年の姿を想像したのだろう。匂宮はため息をつきながら言う。


「澪が怖がるだろうと思って、しばらくは見せるつもりはないから安心してくれ」
「う、うん…」
「玉藻。お前も澪の前でうかつに男に化けるなよ。怖がるから」
「言われなくてもしないわよお。私も男は嫌いだもーん」

玉藻はにこにこ笑いながら、澪と匂宮に言う。

「澪、玉藻は本当に男嫌いだからたぶん大丈夫だとは思う」
「ほ、本当?」
「本当。兄の私が言うのだから間違いない」
「なんだか、その姿で『兄』って言われても…似合わないね」
「…澪の為にこの格好をしているというのに!!」
「そ、そんなの私は頼んでいないもん…」


匂宮と澪のやり取りが面白かったのか玉藻が二人の話を聞いて吹き出した。

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