小説 | ナノ


▼ 08

シレジエンとは、「帝国」の領土の一部の領地のことである。

シェーンブルーの首都の上に、ベーメンと言う場所があり、その上にシレジエンがある。シレジエンがゲルマニクスとの国境になっている場所だ


国境であることも原因しているかもしれないが、シレジエン自体が豊かな自然と大きな炭田がある土地だった。過去何度もその炭田を巡っていろんな国が戦争などで領土争いをしている。

さらに言うと、この場所は「帝国」のなかの商工業が盛んで経済活動が活発な場所の1つだった。



そのシレジエンに…。
隣の国であるゲルマニクスが、たくさんの兵を連れてシレジエンに攻めんできた。
厳しく訓練された整然とした歩兵隊に始まり、重甲騎兵に砲兵隊軽騎兵達と王であるユーグを合わせて3万もの精悍な軍隊が攻め込んできたのであった。


不幸なことにエステルは、ほとんどシレジエンに兵を配備していなかった。
その為シレジエンはなすすべもなく、いわゆる無血開城に近い状態で占拠されてしまったのだ。


「な、なんですって!!」

エステルの大声が会議室に響き渡った。
すると、他の大臣達がざわざわと騒ぎだした。

「ゲルマニクス??」
「ゲルマニクスとはどこだ?」
「隣国の田舎者の国では??あまり歴史は長くない所でしょう」


…建国したのが「帝国」よりもシェーンブルーよりも短いからか。
特に地方の大貴族なら知っているものが多いかもしれないが、中央であるシェーンブルーにいる大貴族達はあまりゲルマニクスについて詳しいことは知らないようだ。

そんな様子を見て嘆かわしい、とエステルはこめかみを押さえた。
エステルを横目で見たバルト公は、口を開く。

「…よろしいでしょうか。かのゲルマニクス王…ユーグ様からの使者が来ており、その方から手紙を預かっております。」


咳払いをしたバルト公がエステルと大臣達に向き直って言う。

「バルト公、読んでもらってもいいかしら」
「はい」


バルト公はその手紙に目を落としながら手紙の内容を言う。


『親愛なるシェーンブルー女王は孤立しておられる故に、四囲はいずれも敵ばかりである。この私は女王を助けるつもりで進軍しているのだ。他国によって奪われないよう、かの国を守護するためである。その為にシレジエンを譲渡していただきたい。』と。

バルト公は冷静な声で続ける。

「なお、もしこれが無条件で受け入れていただけない場合に戦になってもその責任は私にはありません。武力を持って首都を攻撃して陥落させる自信があります。非力な貴女達が選ぶ選択肢は1つしかないことはおわかりでしょう」



この手紙、言い方によってはよく聞こえるかもしれない。
しかし、元々貧困で小さな国の王様が、中央に大きな領土を持っていて歴史の長い王に向かって、かなり酷い条件と皮肉交じりにこちらを馬鹿にしているのだ。


エステルはその意味がすぐにわかって、眉をつり上げた。


「…」

隣にいたエドヴァルトは、エステルの手が力いっぱい握りしめられて、長く伸ばした綺麗な爪を手のひらに食い込むほど握られている事に気づいた。

「馬鹿にしてるわ…あの男…!!」


エステルが小さな声でそれを言うのと同時に、大臣達はゲルマニクスへの対応策を話し合い出した。


「戦になるくらいならば、シレジエンの一つでも挙げてしまえばありませんか…『帝国』の領土などたくさんありますでしょうに」
「そうだそうだ。戦争なんぞして楽しみにしている演奏会が中止になる方が私には困る」


大臣達の保身に走った声が聞こえる。

ぎょっとしたエステルとは違い、ここにいる大臣達はみな先帝王のもとで高給を貰ってきた老臣ばかり。保身に走った提案しか聞こえなかった。


彼等がエステルよりも危機感がないのは理由がある。

それは、彼等自身の「領地」ではないから。
もし自分の所有する領土であれば、大急ぎでゲルマニクスに対応したり対策を取るであろう。しかし、シレジエンは国境であるがゆえにこの貴族たちの所有する場所ではなかったのだ。

エステルの父親も戦は経験している。
しかし、彼が皇帝になってからは一度も戦がなかったのだ。
いや、バルタザール自身は戦に参戦すらしていない。参戦しようと準備をしていた時に状況が変わって戦争が終結してしまったのだ。

それと同様、この大臣達も戦に出たことも…自分の軍を動かしたことすらないのではないかと思う程の平和ボケした人達しかいないのだ。


平和な生活が長かった彼らにとって、この戦が起きるかどうかのこの苦境に立たされた状況はまったく想像が出来ない事であったし…、緊急事態には全く対応できないほどの無能ばかりであった。


「頭が痛くなってきたわ…」
「…大丈夫?エステルが体調悪いなら、会議は明日に持ち越してもいいんじゃないかな」

エドヴァルトの心配そうな声が聞こえるが、エステルは頭を振る。

「そうちゃなくて。この状況に頭が痛いのよ…」
「ああ、そういうことだね…。」
「どうしたらいいのかしら…」

エステルは頭を抱えながら、後ろの背もたれに寄り掛かる。

「(やはり、ここにいる大臣達は私の為…いや、国のために戦ってゲルマニクスを撃退しようという考えはいないのだ)」

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