小説 | ナノ


▼ 07


エステルは王位継承が決まってからはエスターライヒ家やシェーンブルー、「帝国」の歴史や政治のやり方は勉強したのだが、軍略や戦略を考えられるほどの経験はまったくない。

知識しかない状態で、経験がない状態で状態で。
エステルは何をしたらいいのかも、考えつかない。

本来の皇太子や王子であれば、王位や皇位を継ぐ前に武者修行の一環で他の国に訪問し、その国の王や文化を目で見て勉強する事がある。

その国の王がどんな人なのか、その王の周りの人達と面識を持つ事が出来れば、国際情勢で何か起こっても手紙や贈り物をして協力を仰ぐことも出来ただろう。


エドヴァルトも、本来は別の国の君主位を継いだのでシェーンブルーやゲルマニクスにも訪問している。その時にエステルと出会って、恋愛を成就させてこうして結婚している。

エステルは女性だったのと、王位継承が認められるまでにかなり時間がかかってしまいなかなか他の国へ訪問などは出来なかった。それに、他の国の王の事も全然わからないし、手紙すら送りあったこともない。

友好関係がなく、どちらかというと「女性が王位を継ぐ」に反感を持つ国の王が多い今の状況は…。
エステルが窮地に陥っても誰もエステルの事を助けようと思わないだろう。エステルは非常に歯痒かった。


…しかし、後悔したってもう遅い。
エステルは気持ちを切り替えて、大臣達に言う。


「シェーンブルー軍の事も私はあまり理解できていないし…、軍の足りないところや改革すら出来ていないのにこの状況は厄介だわ…」

もう少し早め早めに軍の方にエステルが興味を持って動いていれば、その事が周辺諸国に気づいていればきっと牽制になって兵を動かすことにはならなかったかもしれない。


「話を変えましょう。私が相談したいのはミゲル王の事よ。」

エステルは話題を変えた。
ミゲル王が嫁がエスターライヒ家の者だということや、自分の家柄を主張して皇位継承と王位継承を主張していることを改めて説明をした。


「アマーリア姫は、バヴィエーラに嫁ぐときに『エスターライヒ家の相続も継承権も放棄する』としていましたが、その事は都合よくミゲル王は無視をして主張されているのでしょうね」
「都合いいわよね。第一、その理論が通るのならエドだって皇位継承権があるわよね?私の旦那様ですもの」

エドヴァルトは自分の名前が出て、エステルの方を見てきょとん、と見た。

「え。何?エド」
「いや、何で俺に皇位継承権が?」
「嫁が皇帝一族の者だから旦那の自分に皇位継承権がある、との事でしょう?彼の主張は。エドだって同じ事よ」

エドヴァルトはあはは、と笑い出した。


「俺が皇帝?そんな器じゃないでしょ…。俺はそんな立派な人間じゃないし、エステルの方がふさわしいよ」
「そうですぞ、ただでさえ王配殿下は貴族でしかありませんし」
「ふふ、その理論が通るのでしたら
「杖を付いた足の悪い王など聞いたこともありませんな」


貴族達のヒソヒソするエドヴァルトへの陰口が聞こえ、エステルは眉を寄せながら冷たい声で言った。


「失礼極まりないわね、貴方達。女王の旦那に対して最悪ね。話を戻して頂戴」

エステルの苛ついた声に、陰口を叩いていた貴族たちは慌てて口をつぐむ。

「ミゲル王の主張は私は認めない。そういう認識を貴方達も持っていてほしいの。私は王位も「帝位」も諦めていない。ミゲル王に譲る気もないし、廃位する事も絶対にない!」


エステルがそう言った瞬間、会議室の外からあわただしい声が聞こえて一人の貴族の青年が入ってきた。

その男性は他の大臣達から「入る資格がない奴が入るな!」という暴言を無視して、一目散にバルト公の側に行く。
そして、バルト公に耳打ちをする。


「馬鹿な…」

耳打ちされた言葉を聞いてバルト公は大きく目を見開いて、手を口に当てて青ざめた。

冷や汗がちらりと見える。
驚きを隠せずに焦っているのだろう。
その様子に、エステルとエドヴァルトはただならない状況が起きたことを悟った。


「何だ、バルト公!早く聞いたことを言え!」

先程バルト公に皮肉交じりに食いついた貴族が大声を出す。
バルト公は長く伸ばした後れ毛も耳にかけて、チェーンのついた片眼鏡を少しだけ直した。

そして息を一つ吐いた後に、冷静を装いながら唇を開いた。


「ゲルマニクス軍が…。帝国領シレジエンに侵略して占領しました。
その軍に…ゲルマニクス王ユーグ王の指揮だと…のことです。」

その言葉に、エステルや大臣達は言葉を失った。

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