▼ 03
「どうだか。敵国の王の言うことなんざ信用できないね」
「あらそう。このコーヒー豆、チョコレートみたいな甘い香りだけど苦味あって美味しいのにね。」
「…」
コーヒー狂いと言われるほどのコーヒー好きのユーグの眉が動いた。
「…かなり高いものだったけど、ゲルマニクスの王様は味に繊細なのかしらね?飲まなくてもいいわ」
「…っ!」
ユーグの表情に不快の色が混じり出したのを見て、エステルは「フン」と鼻を鳴らしながらコーヒーを飲む。王室御用達のアウガルデンのカップを、壊れないくらいの強さでコンコンと爪で鳴らす。
ユーグはエステルが一口飲んだ後に、カップに口をつけた。
「味は悪くない」
「口に合ってよかったね。ユーグ君」
コーヒーをちゃんと飲んでくれたユーグに、ほっとした表情になったエドヴァルト。
「でもミルク淹れながらコーヒー飲むようなバカと一緒の空間で飲むのは嫌だね。不快極まりない。コーヒーは何も入れずに飲むのがいいんだ。」
「は?」
「ああ、ミルク入れないと飲めないお子ちゃまだったか。小さいもんね、君。見た目が小さいと味もお子様なのかな?」
「…っ!」
エステルは空になったカップを乱暴に置きそうになったが、お気に入りのカップなので自重する。
二人の一触即発の雰囲気に、エドヴァルトは冷や汗が出てきた。このまま穏便に、終わってくれ…と思う。
「で、ユーグ。講和のことだけど。受け入れてもらえるのよね?」
「一応そのつもりできたつもりだが?君がキレだしたりしなければね」
「…あんたが怒らせてるんでしょ!」
「おお、怖い。ヒステリーかい?」
「後で絶対…ぶっ飛ばすわ…」
ユーグは二枚の紙をエドヴァルトに渡した。
「立会人のエドヴァルト殿下、お手数かけますが…今回の戦の講和条約を書いてきたからご確認お願いします」
ユーグは怒っているエステルから顔を背け、年上のエドヴァルトに敬語を使いながら話す。
エドヴァルトは受け取って、条約を黙読する。
次第にエドヴァルトの表情が、だんだん無表情に変わってきた。彼が顔をあげると、また目だけ笑っていない表情になるユーグ。
「エステルに見せてあげてくれ」
「…わかった。エステル、どうぞ」
「エド、有り難う」
エステルは紙を受け取った。条約に目を通すと、エステルは驚愕の表情になる。
「な、何これ…」
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