小説 | ナノ


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「言いたくない、ってこと?」
「…」

貝のように口を閉ざしたディアナ。
何を聞かれても答えない、と言う意思が見える気がする程だ。エステルは無理にディアナに事情を聴くのは無理そうだ、と感じた。

「…ディアナ。言いたくないのなら、私は無理に聞かないわ。ディアナが話してくれるのを待つから」
「…」
「ただ、貴女の行動ひとつで大臣達に迷惑がかかったりすることもあるのよ。それだけ覚えてて。」
「…」
「2日間、しっかり頭冷やして。そしたら、また私の護衛をお願いしてもいいかしら」
「…」

口を閉ざしたままだったが、ディアナは小さく頷いた。エステルはそのまま部屋を出て、執務室に戻る。

ディアナとユーグは何かしら関わりがあったことは事実だろう。顔見知り…かどうかはわからないが。

悶々と考えるより、今は戦後処理の方が大事だ。エステルは気持ちを切り替え、書類に目を通し始めた。



そして。次の日。
エステルが『帝国皇帝』としての戴冠が。
やっと決まったのであった。



エステルはこの長い戦が終わったことが、未だに信じられない状態だった。

父が亡くなってシェーンブルー王になり。ユーグやミゲル王達から王に即位することを認めてもらえず、『帝国』の皇帝にもなれなかった。

イシュトヴァーンを説得して味方になってもらい。
連合軍に反撃をしながらミゲル王と話をして、和解をすることができた。そして、妹の死とようやくの停戦と戦の終結。


約2年にも及ぶことだったと思う。
エステルも20歳の誕生日をまともに祝うことなく、今日を迎えた。聖誕祭的なものはあったが、バタバタし過ぎてもはや覚えていない。


「終わったのね…一応」

エステルがポツリと呟く。ボーッとしているエステルに、近くにいたバルト公が書類を持ってくる。

「陛下。書類の確認をお願いします」
「わかったわ」

エステルが目を通し始めると。
バルト公はいつもの生真面目な表情を崩し、微笑みながらエステルに言った。

「やっと、平穏な時が来ますね。陛下」
「…そうね。戦争で貧乏になったこの国を建て直さなきゃね」
「そうですね。そういえば、陛下宛に何か届いていましたよ。手紙ですね」
「有り難う、書類の方も大丈夫だわ。今すぐシレジエンにいるシェーンブルー軍を呼び戻していいから」

エステルは書類をバルト公に返して、手紙を受け取った。手紙の送り先はシレジエンだった。達筆すぎて読み取れなかったが、「HH」とイニシャルが書かれてある。

「来週、ちょっと出掛けてくるわ」
「どちらに?」
「教皇聖下の所よ」

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