小説 | ナノ


▼ 01

__話は少し遡る。

バヴィエーラ軍の駐屯地。

たくさんの兵士に囲まれた中に、40を過ぎたくらいの渋い表情をした男性がいた。
薄茶に近い金髪を後ろに撫で付けており、一本の後れ毛もない。神経質な性格を表すように細められた瞳。甲冑とマントを着ており、王者の風格を示しているような人物。

先日、『帝国』の王になったミゲル王その人である。


「ところで、ゲルマニクスの王からの返事は来たのか?」
「はっ!陛下!まだ来ていません!」

ミゲル王に不機嫌そうに言われ、兵士たちはおろおろと怖がってしまっている。
あまり感情を出さないこの王は、他の者達からも恐れられている。
妃のアマーリエでさえ近寄ってこないくらい、だ。

特に妃は、年下の従妹の戴冠式にもこっそり行ったほどのエスターライヒ家好きだ。自分達の結婚式にも参加してくれたあの小さい子。あの子は敵じゃないわ、と言ったが彼は耳を貸さなかった。


ヴィステルバッハ家が皇帝の座につくためだ。
エスターライヒ家の皇位の独占には、先祖代々苦しんでいた。
いつかはこのヴィステルバッハ家に王冠を。それだけが彼の信念だった。
妻の従妹には悪いが…と思うがそれが戦というものだ。


エスターライヒ家から王冠を取った後に。
シェーンブルーから『帝都』の立場を取り上げてバヴィエーラの属国とする。
それがミゲルの目的になっていた。


今のバヴィエーラの軍はトリアノンの援軍との混合軍。
ゲルマニクスの援軍は一切来ない。

援軍を呼んでいるのだが、その事についてもゲルマニクスはなかなか援軍をよこしてはくれない。ミゲル王はもっと不機嫌になる。

同盟関係は共通の目的があり強固なものだが、あまりにもゲルマニクスはシェーンブルー軍に全力投球であり…こちらには援軍を送らないのはいかがなものだろうか。


ユーグの、若造ゆえの自尊心の高さと傲慢な態度がミゲル王をイラつかせてしまっている。彼にとってゲルマニクスへの信頼感はあまりないのだ。


「同盟を組んだ意味がないだろう…あの若造…何を考えておるのだ」


ミゲル王は、先ほどトリアノンの王と会談をした。
「もし、シェーンブルーを降参させたらどうするか」という話をしてきたのだ。
しかし、ミゲル王は…トリアノン王の案に賛成しなかった。
それどころか、正直ついていけないと思った。


「…もし帝都を占領したら、あの子を捕虜にして処刑するとは…恐ろしい考えの者だ」

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