小説 | ナノ


▼ 02

ミゲル王が呟くように言うと、一人の男が近づいてきた。
それは、トリアノンの援軍の代表であるフルーリ枢機卿であった。


「枢機卿。少し進軍の場所を変えてもよいか」


「はっ?何故ですか、ミゲル王!」
「このまま帝都を占領しても、シェーンブルーの領土はあるだろう?その領土すべてを潰してから、帝都を占領した方がよいのでは?と思うのだが」


ミゲル王は、枢機卿に説明した。
このまま帝都を占領しても、シェーンブルーにはほかにも領土がたくさんある。
その領土にエステルが逃げ込んだら、探すのも手間になる。
ならば、逃げられないようにすべて領土を潰して…逃げられない状態にして追い詰めてはどうか、と提案したのだ。


その提案に、フルーリ枢機卿は感心したような表情になる。


「成る程…一理ありますな」
「その方が、エステル姫も王冠を諦めるだろう。もちろん、その占領した領土の一部はトリアノン領にしても構わない」
「わかりました、ではメルキオール様にも申してきます」


フルーリ枢機卿はそのままトリアノンにいるメルキオールへ手紙を書いて、使者を出す事にした。ミゲル王はそれを確認して少しだけ安心した。

彼はエステルへの逃げ道をなくしているわけではない。
そこまで追い詰めて、自殺されたら後味も悪いし…何より彼女は自分の妻の従妹だし、まだ20年も生きていない女の子なのだ。

彼の記憶にある、エステルは…4歳の可愛い女の子だった。
いくら敵とはいえ…女子にそんな酷い事は出来ない。
それが自身の甘さだと思っても…。


賠償金くらいならいいが、見せしめにして処刑しようとするトリアノンの戦後処理のやり方に反発の心がわいてしまった。エステルに対して、情がわいてしまい、できるだけ時間稼ぎになればいい。と…願って、この案を出したのだ。


結果的にメルキオールは了承してくれた。
シェーンブルーの帝都を攻めるよりも前に、ミゲル王はバヴィエーラの領土を増やすことにした。兵隊に別の場所へ向かうように指示を出しながら進軍を始めた。


それが、完璧な計画を練っていた「彼」の計画を壊す結果になるとは、
誰も思わなかった。

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