いつもいつも
ノックの音が聞こえると、心臓が飛びはねてとても期待してしまう。
勢いよく扉が開かれる音で、年下の恋人の訪問を確信。
わたしの顔を見るなりニコッと太陽みたいに笑うから、二人の時間をこんなにも楽しみにしてくれているのだとわかってしまって、途端にわたしはどんな顔をすればいいのか困ってしまう。

とりあえず本に集中している振りでごまかす。
わたしは一体どうしてしまったのかしら。
大人の余裕なんてどこかに置いてきてしまったみたい。
でもそれを見透かされたくない、できればだけれど。
だってナミちゃんすぐ調子に乗るから。














空き時間に花壇の水やりをしていたら、コロコロとどこからかテニスボールが転がってきた。
なにかしら、と拾い上げようとしたら

「すいませーん
ボール転がってきませんでしたかー?」


振り向けば体操服姿のナミちゃんがいて、

「あ、ロビン」

「こういう場ではちゃんと先生って呼んで」

「ごめんごめん。つい、ね…」

そう言って申し訳なさそうな顔をしているけれど、あまり反省はしていないようね。

「ナミちゃんは今体育の授業なのね?」

「うん、テニスをね
それにしてもこんな風に会えるなんて奇遇だねー」

えへへーなんて言いながらナミちゃんは浮かれている。

「ナミちゃん、わざとボールをこっちに転がしたでしょう?」

「……………そんなわけないじゃーん」

とても目が泳いでいるわ。
なんとなくからかおうと思って言ってみたんだけれど、やっぱりそういうことだったのね。


「今の不自然な間が真実を物語っているわ」

「だって運動場からロビン先生の後ろ姿が見えたんだもん
気づいたら手が滑ってボールがロビン先生の方に」


もう、授業はちゃんと受けてほしいのに。
でもそれを嬉しく思う自分もいて、なんだかむしょうに恥ずかしい。
ナミちゃんの直接的な愛情表現にいつもどうしていいかわかなくなる。
甘い甘い感情が心に広がっていく感覚。


「ナミさん、今度したらわかっているわよね?」

「すいません…お願いだからいつもの呼び方で呼んでください……」


土下座でもしそうな勢いでナミちゃんが謝ってきたからとりあえず許してあげることにする。
誰かに見られたらそれこそ大変。

「それにしてもよくわたしの姿に気づいたわね」

「だってロビンだから
あたしはロビンがどこにいても見つけられる自信があるよ」

さも当然のようにナミちゃんが恥ずかしげもなくそんなことを言うから、みるみるうちに顔に熱が集まってきた。
くるりとナミちゃんに背を向けて、水やりをすることでそれをごまかす。


「ええっ、なにか怒ってる?」

心配そうにナミちゃんが検討ちがいなことを訊いてきて、

「…さっき先生と呼ぶように言ったでしょう?」

「あ、ごめんっ
気をつけるから!!」

本当はどきどきしてそれどころじゃないけれど、本当のことは教えてあげない。


「おーい、ナミ!!
サボるなああ!!」

運動場側からフランキー先生が怒鳴っている。


「やばっ、変態に気づかれた」

あらその呼び方はあまりにもフランキー先生に失礼だわ。
まあ、あながち間違ってはいない気もするけれど。


「ほら、ナミちゃん
呼ばれているわ」

「あーあ、じゃあまたあとでね」

そう言ってナミちゃんが運動場の方に走って行こうとするから

「待って、ボールを忘れているわ」

わたしの足元に転がっているボールを拾いあげてナミちゃんに投げた。

「あ、そうだった
ありがとうロビン先生」

ナミちゃんがぺこりと一礼。
生徒らしい振る舞いに安心していたら、ナミちゃんはズボンのポケットからもう一つテニスボールを取り出してこっちに投げてきた。

「ほんとうはそっちのボールを転がすつもりだったんだよー!!!」

そう叫んでナミちゃんが逃げるように走っていったから、疑問に思いながら受け取ったボールを見たら、







"ロビン命"


マジックで大きく書かれたそのボールを素早くポケットにしまいこんだ。
こういった場合は、笑えばいいのかしら。


こんな下準備までして…確信犯ね。









とりあえず、しばらくは"ナミさん"って呼ぶことにするわ




<あとがき>
いたずらナミちゃんです
ロビン先生はなんだかんだいって多分あのテニスボールを大切に保管するんだろうな
ほんとは甘い話になる予定でした…






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