Photo frame
http://nanos.jp/dmsxsmb/

住んでいた村から旅立ってすぐ。フィローネの森に差し掛かったところで、おばあちゃんから貰った大切なコンパスが邪悪な仮面を被った小鬼に盗まれてしまった。あのコンパスはたぶん、勇者の証。どこからともなく現れたコッコ達に救われて、リンクルはなんとかコンパスを取り返した。もう無くさないようにとコンパスを首にかけ、ハイラル城に向かって再出発した……のは、もう数時間も前のこと。意気揚々と進むリンクルの前には、未だ深い深い森が広がっていた。

「あれ?あれれ?わたし、こっちから来たから、えっと、あっちに行けばいいんだっけ?」

クルクルと手にした地図を回しながら、リンクルは首を傾げる。まっすぐお城に向かっているはずなのに、どうしてどんどん森が深くなるのかな?もしかして、お城ってわたしが思っていたよりずっと遠くにあるのかな?

「お姉さん、迷子?」
「ううん、迷子じゃないよ!……あれ?」

不意にかけられた少年の声に、リンクルは足を止める。すっかり日の暮れた暗い森の中なのに、わたし以外に人がいる?暗闇にまぎれて姿の見えない声の主をリンクルは注意深く探った。

「そう?迷子じゃなかったの?でもお姉さん、森の出口を探してるんでしょう?」
「それはそうだけど、わたし、ちゃんと地図を持ってるよ?」

ほら!と言いながら、手元の地図に目を落とした。向きはたぶん、こっちかな?リンクルはまた地図を回した。

「森の中まで詳しく載ってる地図なんて、無いと思うよ?」
「ええ?でも、この地図には森もちゃんと載ってるよ?」
「森は載ってるだろうけど、森の中の道順は載ってないでしょ?それに、あんまり森の奥に近付くのは危ないよ」
「そっか……。うん、気をつけるね。じゃあわたし、もう行かなくちゃ!」

リンクルは何者かもわからない案内人に礼を言うや否や、出口だと思う方へ駆け出した。森の奥が危険なら、早くこの森を出ればいいんだよね!迷いなく疾走するリンクルは、追いすがる少年の慌てた声に気付かなかった。

「待って!そっちは逆だよ!お姉さん!!」

---

時折現れる魔物を倒しながら、リンクルは真っ直ぐ森を歩く。このまま行けばきっと森を出られるはず。どこから来るのかもわからない自信に突き動かされながら進んでいた。ふと、リンクルの前が開け、月明かりの差す場所に出た。空を見上げ、足を止めたリンクルの後ろから足音が追いかけてきた。

「やっと追いついた。お姉さん、足早いね……」
「あれ、きみは……さっきの子?」

息を切らしながら少年は頷いた。緑の服に、緑の帽子。頭に黄色い狐のお面をつけた男の子だった。特徴的な緑の格好は、リンクルにも覚えがあった。まさに自分が今しているそれとそっくりだ、と思った。

「もしかしてきみ、勇者なの?」
「え?えっと……。いや、違うよ」
「違うの?そんな格好してるから、勇者なのかと思っちゃった」

少年は戸惑った様子で笑う。息を整えて、少年はリンクルを見上げる。

「そんなことより、お姉さんちゃんと俺の話聞いてた?奥に行っちゃダメだって」
「もちろん、聞いてたよ!だからこっちに来たんだけど、全然外に出られないね?」

地図を片手に首を傾げるリンクルの様子に、少年は小さく溜息を吐いた。リンクルはまた地図を回す。反対向きだったのかな?

「お姉さん、こっちは行っちゃダメって言った方だよ。外は真逆」
「わたし、道を間違えたの?うーん、こっちだと思ったのになあ」
「思ったのになあって……」

今度は深い溜息。リンクルも溜息の意味に気が付いたのか、地図から視線を離して少年を見る。少年は呆れた顔でリンクルを見上げていた。

「わたし、迷っちゃったみたい」
「だから最初に迷子?って聞いたのに」
「でもわたし、ずっと真っ直ぐ歩いてたんだよ?」
「その真っ直ぐの方向を間違えたんでしょ?」
「うーん、そうなのかも!」

えへへ、と笑ったリンクルに、少年は軽く溜息を吐いてから笑った。リンクルはまた地図を見る。どこで道を間違えたんだろう?唸りながら今度は地図を半周回した。その様子を黙って見ていた少年が口を開く。

「ね、おねーさん!その地図、見せて!」
「え?うん、いいよ」

リンクルは素直に地図を渡す。少年が地図を見ている少しの間、リンクルは少年を観察していた。服装に気を取られて気付かなかったけれど、この子は子供だ。こんな小さな子が勇者なわけがない。リンクルは「勇者なの?」なんて質問をした自分の馬鹿らしさに、声を出さずに笑った。背丈はリンクルの腰くらい。剣を背負ってはいるけれど、魔物がいる森の中に入ってくるくらいだから、きっと護身用なんだろう。親はどこにいるのかな?一緒に探してあげた方がいいのかな?リンクルが自分が迷子になっていることもすっかり忘れ、少年の心配をし始めた頃。真面目な顔で地図を見ていた少年が心底複雑そうな表情でリンクルに視線を移した。

「お姉さん、すごく言いづらいことなんだけど……」
「えっ?なに?あっごめんね!じっと見ちゃって」

リンクルは大袈裟に身振りを交えて謝罪する。少年は表情を和らげて笑う。ああ良かった。嫌がられてなかったみたい。

「それは別に気にしてないけど、えっと……」
「どうしたの?」
「これ、この辺りの地図じゃないよ」
「ええ!うそ!わたし、道じゃなくて地図を間違えてたの?」
「そうみたい。はい、これ」

少年はリンクルに地図を返した。リンクルは慌てて地図を睨みつける。変だな、ちゃんとフィローネの森って書いてあるのに。逆さまなのかな?リンクルは地図を回す。ああ、違うか。地図が違うんだから、回したって正しい地図にはならないか。リンクルが地図をくるくる回す姿に、少年は堪らず笑い出す。

「あはは!あのね、その地図、森の反対側の地図だよ!」
「えー?そっかあ。でもどうしよう?わたし、早くお城に行かなくちゃいけないのに!」
「へえ、どうするの?」
「うーん、どうしよう?」

笑いが止まらないのか、少年は肩を震わせながら問う。リンクルにはどうすればいいか見当もつかなかった。だって、頼みの地図は間違えていて、わたしは森の奥で迷子になって。わたしは独りで……。頭を捻るリンクルの目に、少年の笑った顔が映った。あれ?

「わたし……ひとりじゃなかった」
「うん」

少年が頷いた。そういえば、この子とは森の中で会ったんだった。

「そっか。きみも迷子なんだ!わたしと一緒だね!」
「違う!なんでそうなるの!」
「え?違うの?てっきり親とはぐれちゃった子なんだって思ってたよ」
「はあ、違うよ……。お姉さん、本当に面白い人だね」

リンクルは心外だ、と思った。わたしはいつも真面目なのに。この子は迷子じゃないらしい。じゃあ、やっぱりわたしは独り?リンクルの心に不安が芽生えた。このまま森から出られなかったらどうしよう?前向きに考えなくてはいけないとわかっていても、一度感じた不安は拭えなかった。リンクルは未だ手に持っていた地図を見る。これが違うものだなんて。

「どうしよう」

不安が口から零れ落ちる。

「お姉さん」

落ち着いた優しい声色に、リンクルは少年を見やる。

「お姉さん、俺は迷子じゃないけど。お姉さんを森の外まで案内してあげることはできるよ」
「……え?」

リンクルは驚いて目を見開いた。今、なんて?

「外まで……?きみは、道がわかるの?」
「わかるよ!大丈夫、付いてきて!」

少年はいたずらっぽく笑って、木々の間へ歩き出す。リンクルは僅かに躊躇ってから、その後を追った。

---

「ほ、ほんとに出られた……」

日が昇るより少し前。少年に連れられて森を抜け、リンクルは久しぶりに平原に立った。いつの間にか強く握り締めていた地図は、皺だらけになっていた。

「お姉さん、俺のこと信じてなかったの?」
「ううん。信じてたよ!ありがとう!これでお城に行ける!」
「……よかったね!それじゃ、お姉さん、気をつけてね」

少年は一瞬だけ表情を無くし、それから笑った。リンクルは皺のついた地図を広げながら、少年に問うた。

「ねえ、きみはどうするの?」
「森に戻るよ」
「きみは……あの森に住んでるの?」
「違う、けど。人を探してるんだ。あの森で」

こんなに小さな子が、人探しのために森に籠っているの?けれど、森の中を知り尽くすほど探索しているのだから、きっとこの森には……。

「きみの人探し、わたしも手伝うよ」
「けど、城に行くんでしょ?きっと、早く行った方がいいよ」
「それはそうかもしれないけど。わたしには困ってる人を置いていくなんてできないよ。わたし、勇者だから」

勇者……。少年は小さく呟いてから、俯いた。リンクルには少年が泣いているように見えた。少年は地面を見つめたまま答えた。

「大丈夫。勇者サマの手を借りるような、大袈裟な話じゃないから」
「でも」
「大丈夫だから。勇者サマを待ってる人は、城にたくさんいるはずだよ。だからそっちに行ってあげて。城にいる人達を助けてあげて」

少年は顔を上げ、リンクルの目を見据えて言った。少年の瞳が、譲る気は無い、と物語っているようにリンクルは感じた。リンクルは少し屈んで少年と目線を合わせ、できる限りの真剣な表情を作った。

「……わかった。わたし、お城に行く。だけど、きみのこと、きみが誰かを探していることは、絶対に忘れない。わたしがお城から帰ってきた時……、きみと次に会った時、もしもきみがその誰かを見つけられていなかったら……その時はわたしも一緒に探すね」
「……ありがとう。勇者サマ」

ぎこちなく笑う少年に、リンクルはめいっぱいの笑顔を向ける。

「じゃあ、またね!」
「……うん、またね」

リンクルは立ち上がる。さあ、早くお城に行かなくちゃ!皺を伸ばした地図を開く。お城はどっちだったかな。地図の向きは、こっちかな。時折コンパスに目を向けて、何度も地図をくるくる回す。漸く決めた方に向け、リンクルは元気良く駆け出した。

使命感に燃えるリンクルを見送って、少年は小さく笑った。

「ハイラル城はそっちじゃないよ、勇者サマ……」

リンクルちゃんかわいい
2016.2.25

top ▲
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -