「あ、」
「……!!!」


主のご子女――名前様の世話役となってから数刻。
出陣の予定も内番も休みのため主から呼ばれない限り名前様のそばにいることにした。
喉が渇いただろうと茶を入れてくれば、何やら騒がしい。


「こんにちは!」
「こ、んにちは…」


名前様の部屋から今剣の声がする。
……彼女の部屋は短刀たちの遊び場だったが、事前通達が来ていたはずだ。


「あなたがあるじさまのむすめさんですか?」
「う、ん…」
「ぼくは今剣です!こっちは小夜左文字です」
「…よろしく」


名前様はまだここに来たばかりだ。先程まで他人と関わるのを恐れていたのだ、止めた方がいいだろう。
一歩、部屋に踏み入ろうとすれば、後ろから引っ張られる感触が。


「……?薬研。」
「よォ旦那。あれが大将の娘さんだろ?」
「そうだ。名前様は人と関わるのに慣れておられない」
「まあまあ、俺っち達にまかせておけって」


本当にあの幼い短刀たちの兄弟なのかと疑いたくなるほど薬研は兄貴肌だ。言われるがままに部屋の前に立ち止まれば、満足そうに笑ってそのまま自分は部屋へと足を踏み入れた。


「よう姫さん、突然騒がしくしちまってすまねえな。
こいつらは普段ここで遊んでてな、よかったら姫さんも一緒に遊んでくれないか?」


あんたが遊んでくれるとこいつらも喜ぶんだが。


そう言いながら笑う薬研に他の二人も同意する、しかし未だ名前様の顔はこわばっている。
やはり止めに入るべきかと、見かねて入ろうとした瞬間、足元を白いなにかが走り抜けていく。


「と、虎くん…!!まって!!」

…五虎退か。虎を追いかけてそのまま部屋に入っていく。先に部屋に入った虎は5体ともまっすぐ座っている名前様へと突進して行った。


「…っ、わ!」


まともに突進をくらった名前様はそのまま後ろに倒れ、虎たちの擦り寄りを無抵抗に受けている。
突然の出来事に流石の薬研も慌てて名前様の身体を起こすが、虎たちは名前様に擦り寄るのをやめない。


「ごっ、ごめんなさい…!!大丈夫、でしたか…?」


五虎退が虎を引き離そうとしても器用に名前様にしがみついているせいか離れず、五虎退がさらに焦る。その光景を見て最初はぽかんとしていた名前様が笑った。


「かわいいね」


虎の頭を撫でながら自分から話しかけた名前様に五虎退も嬉しそうに笑う。
いつの間にか今剣と小夜左文字も輪の中に入っており、打ち解けているように見える。
薬研と目が合えば、うまくいったろ?と言いたげに笑っている。


そう言えば、主から頂いた書物の中にあにまるせらぴー、という言葉を見かけたことがある。
動物によって癒されるのだとか。
思い立ち、鳴狐(のお供の狐)を呼んでくれば、名前様は狐が喋ることに驚いたのか虎を抱えてしばらく硬直していた。



アニマルセラピー


20150531

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