落ちぬ汚れ


「血の汚れって落ちないよねぇ」

「あぁ?そうだなぁ」


どこでやって来たのか、Yシャツの袖に付着した血痕を眺め言う。
魅月のシャツは誰の物かもわからない血肉の汚れの他、所々破れており、もう着られた物ではない。


コイツは何時もそうだ。
ふらりといなくなっては血まみれで帰って来る。
最初は驚いたが、今ではもう慣れてしまった。

「これはもう捨てだなぁ」

するりと腕を抜き、Yシャツをポイとゴミ箱へと脱ぎ捨てる。


「おい、なんか羽織れよ」

キャミソール姿の彼女から視線を外し、Yシャツへと目を向ける。くしゃりとなったそれは、衣類と呼ぶより最早布切れといった様子だった。


「ねぇ隼人、血の汚れって落ちないの」

さっきも聞いたぞ。
そう言うつもりで魅月に再び視線を戻すとぼぅっと捨てられた布切れを眺めてた。

「どんなに洗っても綺麗に装ってもね、落ちないんだよ。でね……」


汚れたモノは棄てられちゃうの


そう微笑んだ彼女はぴとりと頬に触れてきた。

ぞくっと背筋が凍るような感覚がした。
ふいに夜風が吹いたような感覚が。


彼女が触れた頬が熱い。ドクドクと脈打ち、彼女を拒絶する。



やだ……いやだ、
何が?
彼女が
何故?
恐い。魅月が恐い。


「隼人はまだ人を殺したことないでしょう」

頬に触れた手とは逆の手を俺の手に絡ませる。


よく知っているはずの彼女の手が、何か異質の物に感じられた。


冷たい。
冷たい。まるで死体みたいだ……

死体が脈を打っている。

錯覚だ、妄想だと理解していても、震えだした指先はだんだんとその震度を上げていく。


ぎゅっ!
「ひっ」

一瞬、絡められた手に力を入れられ、咽が絞まる音が洩れた。

「ぁ、……」

しかし、その手からは力が抜け、するりと自分から離れていった。
「っは、ぁ…は……」

巧く呼吸が出来ない。
まるで水を奪われた魚のように、大きく肩を上下させる。


「隼人……大丈夫?」

「、!ってめ、ふざけ」


るな、
続けるはずの言葉は彼女の言葉によって遮られた。


「ごめんね」

「、…?」


紡がれた言葉は謝罪だとわかっているはずなのに理解出来ない。

今の行動に対するものだと考えられるのに、そう思えない。それは酷く悲しそうな魅月の表情のせいだろうか。

「お前、やっぱ変だぞ。なんかあったのか?」

「ううん。ごめんねなんでもない。ちょっとふざけてみたくなっただけだよ」

隼人ったらビビりすぎ

そういって笑う彼女はいつも通りだったけど、いつも通り過ぎて逆に違和感を感じた。

「ほら、そんな顔しないで。今日はもう遅いし寝よっか」



目を覚ました時、彼女はもういなかった


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