03.
それは細菌のように広まった。
学園中で恋人たちの悲鳴と罵倒が聴こえる。何故、どうして、いや、………
……好きなのに!
男子生徒が刷り込みのように彼女を好きになる。ぶちっ。彼女は微笑む。ぶちっ。惚れる。ぶちっ。微笑む。ぶちっ。
無限ループ。
(もうやめて、)
しゃがみこむ。耳を塞いでも塞いでも、その音は消えない。
「どうしたの?具合悪いの?」
「え、?」
不意に上から落ちてきた声。それは間違いなく男子生徒のもので、思わず顔をあげると、見知った顔が心配そうな目で見ている。
「お、はま、くん」
「うん、」
「なんで、」
「なんでって…」
なんで彼女のそばにいないのか、という意味のその問いを、「なんでここにいるのか」という意味に解釈した尾浜くんは、きょとんとした顔をした。
「クラスメートが廊下の端でしゃがみこんでたら、普通声をかけない?」
かけないよ。少なくとも今の状態の生徒は。それでも立ち上がることはできなくて、じっとしていると、
「よいしょ、っと」
尾浜君はあろうことか隣に座った。え、と私が声を漏らすと、彼はにっこりと笑って言った。
「俺も、ちょっとここで休憩していい?なんか、」
居心地悪くて。その言葉にはっとした。彼はこの異常な空間に男性なのに疑問を抱いているのだ。何故。
眼鏡をぬぐうふりをして、彼の小指を盗み見た。小指にはしっかりと赤い糸が巻き付いている。
でも、その赤い糸には、先が無かった。
03.先の無い赤い糸(もしかして、)[ 4/11 ][*prev] [next#]
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