いちのさん。
そんな話をしていたのが、約一年前。
「勘ちゃん、」
「あ、へーすけ」
季節は変わり、また春がやってきた。呼びかければ赤みがかった茶髪が揺れて、大きな丸い瞳と目が合う。
「もうすぐ始業式だぞ」
「うん、わかった」
用件を伝えると、彼は今も昔も変わらないあの笑顔で返事をした。そのまま二人で体育館まで向かう。
「あ、やっと来たよ"五い"の二人」
「おせーよ、ギリギリだぞ」
「ごめんごめん」
体育館前で待っているいつものメンツに、彼がそう言って輪の中に入っていく。学生服を着た彼らの背中に、一瞬"昔"の姿がダブって見える。
「あれ?何してんのへーすけ!式始まるよ!」
(『あれ?早くしないと授業始まっちゃうよ?』)
「…うん。今行く」
記憶の無い彼らは、陽の光を浴びて輝いてみえる。いっそ自分も彼らの様になれたならと、思ったこともあったけれど。
―――――あいに、きてよ。
あの日の約束を、無かった事にはしたくないのだ。
01.鳥は、(飛んで行ったまま、帰って来ない。)[ 4/4 ][*prev] [next#]