ギャアギャア五月蝿いそれを、俺は見据えた。


「まだ動けるのか、すごいな」

「無駄口をたたく暇があるならさっさと壊せ!」


呟いたら、上から鋭い声が飛んだ。瞬間目の前で叫びまくっていたそれは降りてきた声の主に真っ二つにされた。それの内臓物が飛ぶ。汚い。


「カズイ、汚い」

「洗え」


短い返答。いつものことなので気にしない。俺は壊されたそれを見つめた。見た目は、カブトムシ。でも大きさは人が乗れるようなあり得ないサイズ。何より、それは黒を塗りつぶしたかのように真っ黒。
形をしているだけで、それは生き物ではない。小説や漫画ではなく、そんなものが現実にあるとははじめは信じていなかったのだけど。でもこれは紛れもない現実である。


「ソウ、何してる。帰るぞ」

「はいはい」


カズイは俺に見向きもせず、歩いていく。俺はもう一度壊されたそれを見る。五月蝿かったそれは斬られた途端静かになり、今はもう残骸しか残っていない。しばらくすればこれもまた再生するのだろうな、と思いながら、俺はカズイの後を追った。




00.誰も知らない物語
(そう、これはそういう世界。)

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