前々から思っていた通り、新しく家族になった弟は何か仕事をくれと言ってきた。
力仕事には縁がなさそうな体系に、船内で出来る仕事は限られていた。
とりあえず出来る雑用をやらせることにし、雑用の中でもトップの隊員にハルカのことを任せた。
自分の仕事の合間に気付かれないよう様子を何度も確認すれば、一生懸命すぎて心配になった。


「…頑張ってんなァハルカちゃん」
「……そうだない」
「どうすんだ、1番隊に置くのか?」
「ああ、親父は俺が世話しろって言うからなぁ。まぁ落ち着くまではこのままだよい」


洗濯物を干すために甲板を行き来しているハルカを上から見下ろして言う。
サッチは4番隊に欲しかったなーとぼやくがその顔は笑顔だった。


「なんだかんだ言って、気に入ってんだろ?」
「どうだかねぃ」
「お前、さっきからハルカちゃんのことばっか目で追ってんの気付いてねーのか」
「………」
「おい!無言で蹴るな!!」


ずっと目で追っていた事がサッチにバレていて、ニヤニヤ笑うサッチにムカつき足を上げた。


「でもよ、やっぱ心配だよなぁ」
「………」


蹴られた太ももを擦りながらそこから見えるハルカを見るサッチ。
自分も視線を落としてハルカを見つければ、ハルカは異世界から持ってきた唯一の物がポケットにあることを確かめながら仕事をしていた。
本人はきっと無意識に手を伸ばしているんだろう。


「よーし、お兄さんが構ってこようかな!」
「…お前食糧庫の管理は終わったのかよい」
「…昼飯食ったらやる!」
「ったくよい…」
「すみません、マルコ隊長今いいですか!」
「…今行くよい」


隊員に呼ばれてサッチとはそこで別れ、ハルカの事も気にしつつ仕事に戻った。
ここ何日かでハルカはこの船にも慣れてきた。
敵船もなく、穏やかな航海をしていたから海賊船だということを忘れているのも幸いしているのだろう。
自分の仕事中にも目を配らせていれば、ハルカは初日以外弱音を吐いていない。
涙も見せなかった。
一人でいる時に泣いているのかも思ったが目が真っ赤になっていることがなかった。


「(こんなにも心配するなんてどうかしてる…か?)」
「マルコ隊長?」
「あぁ、すまないよい。で、ここは…」


昼も過ぎて今頃サッチに絡まれて昼食を摂っているだろうと頭の隅で考える。
広すぎる甲板で隊員に指示しながら書類に目を通していれば太陽が頂上より西に移動する。


「後方に敵船2隻発見!!」


マストの頂上から見張りの声が響き渡った。
様子を見るべく船の後方を見れば結構なスピードを出した船が見える。


「どこの奴らだよい!」
「見たこともない旗です!」
「チッ、無名が命知らずだよい」


どうやらこの白ひげに喧嘩を売りたいらしく、船は着々と近づく。
大慌てをするわけでもないが各隊に指示を出し配置に付かせる。


「おいおい、海賊同士で同盟でも組んだのか?」
「…ハルカはどうしたよい」
「親父の所まで遠いし、食糧庫に隠れさせといた!」


この騒動に気付いたサッチはハルカを安全であろう食糧庫に隠して甲板に現れた。
海賊旗の違う2隻の船はモビーの両側に付き、挟み込み乗り込んできた。
こちらも敵船に何隊か送り込み応戦する。
無名の割には数が多く、広い甲板は敵味方関係なしにごった返していた。
それなりに強い奴を伸していれば妙に船内を気にしている奴が何人か居るのに気づく。


「マルコ、何だか中を気にしてる奴がいるよ」
「…あぁ、気付いたかよい」


ハルタも同じことに気付いたようで剣で薙ぎ払いながら言う。
ジッと船内へ続く道を見つめ様子を伺う。


「…嫌な予感がするよ」
「………ハルカかッ」
「ここは僕たちに任せて行ってきてよマルコ」
「すまねぇよい!」


見聞色の覇気はあまり得意な方ではないが首の後ろをチクチクと刺すような不穏な気がして船内へ駆け込む。
甲板からそれほど遠くもないが近くもない距離にある食糧庫に急ぐ。
何匹か紛れ込んだ鼠たちを蹴散らして開かれている扉を見つけた。
そこは紛れも無く目指していた食糧庫の扉で、男の怒鳴り声が聞こえた。



『気持ちわりぃガキが!この野郎!!』


ガタン!と何かが倒れる音が聞こえ、足を急がせる。


「てめぇにもう用はねぇ…!!」

「ハルカ!!!」


ナイフを振りかざして今にも殺そうとしている男がボロボロに血を流しているハルカの前に居た。
焦りから怒り心頭に発して腕が不死鳥化しているのにも気づかずに男を回し蹴りで吹き飛ばす。
食糧が気絶した男によってめちゃくちゃになったことなんて構わない。
ぐったりと床に伏せるハルカに駆け寄り優しく抱き上げる。


「ハルカ!なんで逃げなかったんだよい!」
「…ッ、…ッるこ?」
「…!ハルカ、その目…」


額から流れる血でベタベタな顔を手で少し拭ってやる。
瞼を開けたハルカは呼吸が少し苦しそうで、何故か左右の目の色が違った。
左は黒く塗りつぶされたような瞳で、右はとても綺麗なエメラルドグリーン。
奥に行くほど濃い色になり、それはまさに宝石のような輝き。
そんな目と目が合い、ハルカの瞳は涙で濡れていく。





「僕はまだ、生きてる?」








(震えるその小さな体をきつく抱きしめた)





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