アナタノオト | ナノ



03




通いなれた道をとおり、幼馴染みの家の玄関へはいる。

鍵は空いていた。
ただいま、と声をかけても返事はない。
小さい頃から使っていて、もうすでに
私の部屋とかしている客間のとなりが彼の部屋。

軽くノックをすると中からは簡易な返事。

「ただいま。」
「おかえり。」

オーケストラのCDを聞いている彼。

「今からごはんするから待ってて。
 30分しないうちにできると思うから」
「わかった。その頃に行く。」

その返事を聞いて、下へ戻りご飯の用意をする。


防音仕様の二階からは微かに
チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルトが聞こえた。










「「いただきます」」
礼儀正しく、手を合わせてから箸をとる。


「大丈夫?食べれる?」

「あぁ、問題ない」

普段は口数が少なく、冷徹な印象を与えやすい蓮だけど、
幼馴染の私なら昔からの仲なのでそういうことは少ない。

ってか、ぶっちゃけもう慣れた。


滞りなく箸が進んでるってことはそれなりに大丈夫なのだろう。




「蓮さ、…今度の学内コンクールでるんだよね…?」

私の唐突な言葉に、進めていた箸を止める。


「あぁ、でるが?」

それがどうした?という蓮の様子からすると、
私も候補者に入ってるなんてことは知らないのだろう。


「私も、追加参加者にいれたれてたんだよねぇ…」


ははは…と軽いノリで話してみる。


「……………」

蓮の眉間に一気に皺が寄る。





小さいころから一緒に音楽をやってきて、
互いの音楽は誰よりも分かっているつもりだ。

だからこそ、小さいころから私たちは比べられることを嫌う。

他の子と比べられるなら慣れきった。
けど、蓮とだけは比べて欲しくなかった。
それは蓮自身もずっと変わらず、同じ。

コンクールなんか出るときは、
それぞれ違う楽器ででたり、アンサンブルしたりして
今までは回避してきた。


しかし、今回は違う。

真正面から、私たち2人は比べられる。





「なぜだ?」

「わかんない。 
 私が楽器できるって知ってる人、ほとんどいないはず。
 とにかく、明日担当の先生に聞いてみる」


「あぁ。分かった。
 ……担当は確か金澤先生だ。
 タバコ吸ってる白衣のだらしない先生だからすぐわかるはずだ」


「りょーかい」


コンクールの話はこれでおわり。






つけっぱなしのテレビから流れていた

音楽番組のピアノについて、

どっちからともなく話を変える。







((比べないで))

((気付かされてしまうから))




13.05.29