紫陽花 Ajisai     紫の雨 7

「私…死神を辞める…。辞めて、私も一緒に…」


勢いでそこまで言うと、喜助さんは私の口の前に手をかざし遮る。
そして、真剣な顔でゆっくりと首を横に振った。
私はまた涙が溢れてきた。


「…ど、して…?」


そう呟く私を、喜助さんは見ようとはせず顔を伏せた。
続けて言おうとしたが、頭が朦朧として言葉がハッキリ言えない。

どうしてだろう、凄く眠い。
まさか…と、私は喜助さんを見た。


「ただの睡眠薬ですから、安心して下さい。もう、ここへ来ては駄目っスよ」


そんなこと…無理よ…。
そう言おうとしたが、私の口からその言葉が出ることはなかった。

ゆっくりと眠りに落ちていく中、喜助さんが私の頭を撫でる感触と。
「会えて嬉しかったっス」という言葉が聞こえた。



目が覚めると、そこは四番隊で。
話を聞くと、私は現世で倒れているところを死神に発見されて運ばれたらしい。
喜助さんは、もう来るなと言ったけど。
場所が分かっているのに行かないでいられるはずがない。
今も私の心は、行きたいと訴えている。
行かないと死んでしまうと、叫んでいる。


「おい、現世で何があったんだネ? 君みたいな図太い人間が倒れるなんて」


十一番隊に戻ると、マユリ隊長の嫌味が私を出迎えた。
でも、普段のように言い返す気持ちにはならなかった。
喜助さんと会えたからだろうか?


「少し…疲れていたみたいです」


そう普通に答えた私に、マユリ隊長は首を傾げた。
そして何やらブツブツと呟きながら去って行った。
その言葉の中に「実験」という言葉が入っていたのは聞かなかったことにする。


そして次の虚の討伐に、私は再び参加した。
難なく虚を倒し終えた私は、そのまま浦原商店へ向かう。
玄関先で伸びをしていた喜助さんは、私の姿を確認すると苦笑しながら「やっぱり来ましたか」と言った。
きっと、虚の気配を感じて私が来ると分かったのだろう。
こうして出迎えてくれたことが嬉しかった。


「こんなに早く来られちゃあ、この間の感動的な別れの意味がないじゃないっスか〜…」


そう言って項垂れる喜助さんを見て、私は心からホッとした。
拒絶されると思っていたから。


「…人に睡眠薬を盛っておいて、何が感動的なのよ…」


そう笑ったが、結局、泣き笑いになってしまった。
喜助さんは「相変わらず泣き虫っスね」と笑った。
そして、後ろを向いた喜助さんの背中には『喜』と丸の中に書かれていて、やっぱりこの人はふざけていると思った。

変わらない。
優しいところも、大人なところも。


「今日は、中には入れませんよ?」
「良いわよ、また来るからっ!」


元気良く言うと、返事を言う隙を与えずに私は飛び立った。
気分は数十年ぶりに晴れていて、本当に久しぶりに心から笑えた気がした。

残された喜助は、飛んで行ったゆず乃を見送った後、複雑な心境だった。

そして溜め息を1つ落とすと、家の中に入って行った。


そうして、2人の密会は頻繁に行われることとなったのだった。




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