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 お昼。ジェイムズさんに抱えられていつもの部屋へ行けば、既にジョディさんと零くんさん、同僚さん数人がいて楽しげに談笑していた。

「フルヤったらたった一時間かそこらで××××××作ってきちゃうんだもの、もう××××××に欲しいわ」
「それって×××の?」
「そうそう」
「たまたまめぐり合わせがよかっただけですよ」
「そーいう運も力のうちだ」

 零くんさんに寄せてかみんな日本語だ。しばしば英語らしい発音も混じっていて、途中聞き覚えのある単語があった気がするけれど、覚えはあっても馴染みはないもので何だったのか分からなかった。きゃんにゅーりぴーとざっと?
 みんなこちらに気づいて会話を中断して、各々ジェイムズさんに英語で挨拶を、わたしには日本語でよく来たねっと言ってくれた。
 零くんさんが、それまで談笑で浮かべていたものとはまた別なふうに、ふわっと表情を和らげる。
 まつげまで色素が薄いみたいなので、目を細めてすこし下向くと青い瞳と一緒にきらきらしてとっても綺麗だ。日本人と分かる顔立ちではあるけど、その色味的にやっぱりハーフさんなのかなあ。英語ぺらぺらな舌もつくりから違うのかも。ともかくそれで軽く一個残機が減った。落ち着け落ち着けと内頬を噛みまくる。
 ジェイムズさんが席の内一つにわたしをよいしょと座らせ、その隣に腰を下ろすと、それに続くようにしてみんな空きを埋めていった。
 みんなで囲った机の上には、いつものお弁当とは違い、紙やプラスチックの使い捨てな入れ物ではなく、陶器やホーローっぽい、白い綺麗な器が広げられていた。
 背伸びして蓋の開いたものの中身を見てみると、彩りよく美味しそうな食べ物が何種類も入っている。

「てづくり……?」
「食材は買ったものだけどね、料理はしたよ」

 隣に座った零くんさんが、ほどよい謙虚さをもった声色でそう言った。
 社交辞令でなく本当に作ってきてくれたのだ。みんな分、こんなにたくさん。しかも見た目までよくてインスタ映えしそうである。すごい、大抵の女子は打ちひしがれて這いつくばりそうなほどの女子力だ。持ち寄りぱーちーなる儀式では迷わずMVPだろう。思わず拍手してしまった。
 取皿によそってもらって食べたマカロニとチーズの料理は、今回はウイスキーこそ使っていないらしいものの、ミニトマトやブロッコリーやにんじんらしき野菜も入った彩りよいもので、もはやグラタンのようなビジュアルでありながらしっかりチーズが効いていた。しかも種類が違うのかこれまで食べてきたものとはまた異なった風味のチーズで、それが浮きも消えもせずうまく具材と調和しているし、それだけでなく深みがある味付けで咀嚼している間じゅう口の中が幸せいっぱいになる。

「しぇふ……」

 ポロリと転げ出たわたしの言葉に、零くんさんはくすりと笑って、「はい、お呼びでしょうか。料理長の降谷です」とノッてきてくれた。

「お味のほどはいかがでしょう? お気に召したでしょうか」
「や、やみやみ……ぱーふぇくと……すごい、です!」
「光栄です」

 胸に手をあててスッと礼をする、冗談めいていながらも綺麗な仕草に、食欲とは別の感覚でまた気持ちがフワフワ上がる。お腹も心もハッピー。

 スープやマリネ、マッシュポテトにサンドイッチ、みんな競うように取り分けてはニコニコぱくぱく食べていく。
 ナナメ前のお兄さんは、胃を掴まれちゃったよーなんて言って笑っている。わかる。
 ジェイムズさんも美味しいと褒めて、和食も食べてみたいなんて言う。わかる。
 こんな風に自分から振る舞えて、それが受け入れられて、反応を受け入れて、みんなの空気を和やかに出来るというのは、もう才能だなあという気がする。努力ならとんでもなくすごい。さすが王族なだけある。陰キャの平民には到底無理な所業だ。
 あの親しみやすさというか、話しかけても大丈夫という雰囲気を出してくれるところも、柔らかな人間関係を築ける一端になっているのだと思う。コミュ障に優しい。
 ので、ついつい気軽な気持ちで、それを訊いてしまった。

「あ、あの、れーくん」
「うん? なんだい?」
「びゅろ、て……」
「びゅろ? ビューローのこと?」

 優しげにこてりと首を傾げて発せられた言葉が、ジョディさんたちと話しているときと違って片言の日本語英語風だったのは、わたしに合わせてくれてのことだろう。

「どいう、いみ?」

 零くんさんは、そうだなあ、と軽く考えるポーズをしてみせた。

「単に机とかたんすとか、事務所って意味もあるけど、もしここの人たちがそう言ってたのなら、FBIのことかも」
「えふびーあい?」
「そういうあだ名みたいなものがあるんだ」

 うーん、警察の人のことをおわまりさんとかポリ公とかいうようなものだろうか。いやちょっとたとえが悪い気がする。メイドさんをパッド長、摩耶様を対空番長、IS-1を書記長と呼ぶみたいな? いや更に悪くなった気がする。
 それはひとまず置いておこう、ニュアンスは分かった。

「じ、じゃあ、あの……でいけあ、は?」
「うーんと、お年寄りや病気の人なんかが、昼のあいだ病院や施設に行って、リハビリをしたり病気の予防になるようなことをしたり、お話をしたりするって感じのこと、なんだけど……難しいな。……ああでも、こちらだと保育の意味が強いか」
「ほいく?」
「働くお母さんの代わりに子どもを見ていてくれるところで、確かありすちゃんよりはもう少し小さな子向けかな」

 あ、と、合点がいった。


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