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「結局鬼ごっこは負けか?」 「そーよ、おかげで今日まで掛かりっきり。どうしてバレたのかしら……勘付くようなことしてなかったはずなのに」 「間抜けなダチョウがいたんだろう」 「付いてたのはジャックよ、しかもそんなに間がなかったし……×××××××?」 「×××××××、××××」 え、えふびーあいってあの、ヨーロッパ……じゃないアメリカ……たぶん……のなんかすごい組織なのでは? よく映画やドラマで出て来る……いやそんなに出てくるようなの見たことないけどあの……警察手帳みたいなのをこの紋所が目に入らんかーってする人たちなのでは? ここは我々にまかせてもらおう……っていう……日本に行ったら心臓麻痺で皆死ぬ……あれなのでは? ど、どうなんですかうさぎ先生? ぐるぐる混乱しながら先生の脳に直接話しかけてみると、さし目をキラキラとさせながら、お前がそう思うんならそうなんだろうな、お前の中ではな、とクールに返されてしまった。 そんなこといわんで教えてやーっと先生の体をモフモフ揉んでいたら、視界の端で何かが動いて、少し顔を横向けるとすぐそばにジョディさんの顔があった。 「おはよう、ありすちゃん」 「あっ、お、おは、です」 「昨日は大丈夫だったかしら。この人ちゃんと構ってくれた? デリカシーないこと言ったりしてない?」 「だ、だいじょぶ……ぜんぜん……」 むしろ面倒見られっぱなし迷惑掛けっぱなしであったので申し訳無さしかない。全力で首を振った。 ごめんなさいね、とジョディさんがゆるく眉を下げる。 「見に行こうと思ってたんだけれど、仕事が忙しくって」 「しごと……なにする?」 思い切って聞いてみると、意外そうに瞬かれた。 「あら、教えてなかった? 私もシュウもFBIの捜査官なの」 「そーさかん」 「いわゆるおまわりさんよ。悪い人を見つけて捕まえるお仕事」 「おまーりさん……」 まさに紋所のヤツだ。わたしのふわっとした認識は間違いじゃなかったらしい。 知り合いにいる風な話をしていたから、そのおまわりさんに任せればいいのではなんて思っていたけれど、この人たちがそうだったのか。そりゃ面倒見がいいわけである。なんでそんなに親切が過ぎるほど色々やってくれるのかって、お仕事だったわけだ。職業柄放っておくわけにもいかなかっただけなのだ。 なんだかちょっと微妙に勘違いをしていた気がする。は、恥ずかしい……。 そういえば他に家を用意するとかも言っていた。いてもいいっていうのは一応挙げただけの建前で、むしろそっちを選ぶべきだったのじゃなかろうか。な、なんて行間も空気も読めないやつなんだわたしは……。 頭の中で反省会を開いていたら、ジョディさんの隣に、ジョディさんとはまた違った金髪の女の人が並んできた。 「××××? ××××××!」 女の人がわたしを見てそう言うと、フロアにいた人たちがぞろぞろと、秀一さんを囲うように寄ってきた。 「××、×××××!」 「×××××××?」 「××××××、××××××」 「×××! ××××××」 「××××××ー」 どうも秀一さんではなく、わたしに向かって何かを言っているようだけれど、早口だし次々と被さるように喋るのでさっぱり聞き取れない。 表情を見る限り怒っているというわけではなさそうではある。しかし目を見開いていたりにやにやと笑っていたり人によって違って、一体何についてのことなのかも見当もつかない。 男の人と女の人、目が青かったり髪が金色だったり、肌が白かったり黒かったり、みんな彫りが深くて明らかに日本人ではない顔立ちで、体格も違う。そんな人達がずらっと並ぶと圧倒される。言葉の勢いもあってちょっと怖い。 た、助けてうさぎ先生。 ぎゅっと先生を抱く力を強めたところで、頭上から低い声が降った。 「×××××××××××。×××××××××」 秀一さんがそう言った途端、周りの人がぴたっと口を閉じて静かになる。 一拍して、ジョディさんの隣にいた女の人が、秀一さんに何か短く言葉を返してから近寄ってきて、わたしの顔を覗き込み、にっこり笑った。 すっと、白くて細い綺麗な手が、わたしの手のすぐそばに差し出される。 「ハジメマシテ。わたし、クリス。シューイチのナカマ」 日本語。ジョディさんほど流暢ではなく、ちょっと慣れなさそうではあるけれど、迷わずハッキリと口に出されたそれは、多分わたしが普通に喋るより聞き取りやすい。 「え、えと……はじ……まして。ありす、です……」 ちょっと迷ってうさぎ先生から離し、おずおずと伸ばした手は、すぐさまぱっと握られた。 「×××××!」 「え、えっ?」 「××、ゴメンネ! ありすチャン、よろしく」 「よ、よろしく……です……」 クリスさんがそれに頷くと、今度は後ろにいた男の人がずいっと前に出てきて、同じように簡単な自己紹介をしてくる。 それから代わる代わる、その場にいた人みんなと握手をすることになった。ちょっぴり有名人の気分。 |