06

「なるほど……やはりキールはカンパニーの者だったか」
「気づいてたの?」
「いや、疑いを強めたのはライの――赤井の件があったからこそさ。彼女はなかなかうまく立ち回っていたから」
「彼女を失うことにならんでよかったよ。この先ああいう事態に陥らぬよう、慎重に動かねば」

 国内のおまわりさんとすらあまりおてて繋ぎしない公安がFBIと見合いをしたがったのは、彼らが目を付けている連中――ご存知あの組織について、狙いがだだ被りしている上このまま行くと確実に派手にぶち当たるし、その影響が多数の国に深刻なレベルで響いて共倒れした末組織の一人勝ち状態になり得るからなんだそうだ。
 なんでもあの二十九歳アルバイター改めおまわりさんが掴んだ情報によると、組織のコードネーム持ちに各国の諜報機関の諜報員がゾロゾロいるらしい。相変わらずガバガバじゃねーか。
 しかしそこらから情報が漏れてしまえば無双出来るほどの資力武力政治力があるようで、なんとも金のあるジャイアンじみた厄介な存在だ。
 思い返せば日本国内においても政財界の重鎮なんかが関与しているんだもんな。
 ついでに公安がマークしていた人間がアメリカに飛び、しかもそいつが関わる別グループの施設まであるとかで、そのあたりを捜査かつとっ捕まえさせてくれれば、こちらが追っているベルモット達についても日本での捜査を認めるとのこと。
 FBIとして堂々振る舞えるならそれに越したことはない。
 おまわりさん安室透もとい降谷零とジェイムズが上に掛け合い、ひとまずお互いの行為についてとやかく言わないことと、情報交換や提供を行うということについて賛同する方向で固まり、一時的な日米おまわりさんギルド結成と相成ったのだった。

 都内や首都高を適当に走るワゴンの中、運転手のキャメルにジェイムズとジョディ、降谷零にその部下二人、さらにはコナン君で、各々の母体の意思の確認と、現状をざっくりと話し合って今日のところは解散となった。
 どうにも組織内に不穏な動きがあるらしく、なるべく近いうちに細かいところを煮詰めたいらしい。
 降谷零は今後バーボンメインで動くため連絡は部下経由になるという。有能なおまわりさんは忙しい。
 ここまで来ておいてなんだが、さして何かをしたわけでもなし、話し合いは殆どジェイムズと降谷零とコナン君で回っていったもんで、俺が同席する必要は欠片もなかったような気がする。


 公安の面子はそれぞればらばらに下ろし、残りとコナン君はそのままFBIの拠点へと帰った。
 エントランスを潜る前に呼び止めれば、今日一日目も合わせなかったジョディはしかし断らずに付いてきて、キャメルに貰った鍵を使いワゴンの戸を開ければするりと乗り込んだ。

「……それで、何かしら。仕事の話?」

 向かい合わせにした後部座席で、ジョディが美しく引き締まりながらも柔らかさを纏った足を惜しげもなく見せ、ゆるりと足を交差させる。
 彼女にしては珍しく、腕を組んで体の正面を俺からやや背けて座った。

「いや、……個人的な話だ」

 そう、と相槌ひとつ。それから口を引き結び、促す言葉は発しない。

「……すまなかった」

 体はそのまま、ジョディは目だけでこちらを見遣った。

「それ、何についての謝罪?」
「病院でのことと、車内でのこと、先日のこと」
「何が悪いと思って?」
「勝手をした。騙した。それに、……傷つけるような言い方をした」

 下げた頭に降ってきた小さな吐息は、呼吸ともため息ともつかないもの。
 視線の先の足がほどかれて揃い、更に視界に入り込んできた細い指に、くいと顎を引かれた。
 自然合った青い瞳は笑みも憤りもしていない。
 落とされる眼差しは穏やかなほど、ただ静かに俺を見据えていた。

「私なんかどうでもいいのね」

 ジョディの両手が頬を包む。
 親指で唇をなぞられ、そんなことは、と咄嗟に出かけた言葉は半端に掻き消えた。

「――あなた残酷だわ」

 俺を見下ろすよう首を俯けたことで、短い金髪がさらりと小さく揺れる。

「単に泣くから謝るんだわ、傷ついた、悲しいと言うから、腹立たしいと言うから謝るんだわ。私があなたに向けた気持ちをこれっぽっちも、受け取りもしないし受け取らないとも言ってくれない。自分より外にいる私を認めはしても、自分の中には欠片たりと私を認めてはくれない。私があなたに気持ちを投げたところで、その行為と事実が存在すると、ただ認識するだけなの。あなたの気持ちなんて向けてはくれない。向けるようなものを持ってもくれない。――私を、関係のない、交わりもしない、全く別の生き物として捉えてるんだわ。それさえあなたはどうとも思っていないから、当たり前のように無意識に線引いているから、そうして理解も必要とせず優しそうな振る舞いばかりするし、耳障りのいい言葉ばかり紡ぐのよ」

 しろい手は頬から滑るように顎を撫でて首に回った。

「ねえ――私はあなたを殺したと思ったのよ、“トーヤ”」


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