05

 参考までにアドバイスをくれ、と言ってみると、ジョディは「可愛い人の前では敬虔な信奉者でいることね」とウインクした。
 聞いたことのある台詞だ。そういえばあの彼とも仲が良いんだったな。


 時刻も夕方、区切りがついたらしいコナン君を送るため車を走らせていれば、助手席に座ったコナン君はちょっとの間小さく唸って、それから「赤井さん」と呼びかけてきた。

「あのね、もし……そういう気持ちが湧いたんなら、捨てちゃダメだよ」

 横目で捉えた青い瞳も顔立ちも、相変わらず快斗くんと似ている。うーんでも後ひと押し。なんて考える辺り本当にダメだなこの男は。お花畑か。救えない意味で湧いてるんじゃないか。

「個人的には、なんというか、複雑っつーか、なんとなーくそうだろうなって相手に、思うところがないわけじゃないけど――その気持ちは人間にとって大事なものだし、なにより赤井さんに持っててほしい。それは自然なもので、資格がないとか許されないとか、負い目を感じるようなものじゃないんだ。一応言っとくけど、ボクに伺い立てる必要だってないからね」

 それからコナン君は、やや頬を赤らめて、そっぽを向き「ボクだって、その、気持ちはわかるし……」と呟いた。やはりな、言葉の深みが違う。今度からコナンさん改めコナン先輩と呼ぶべき? しかしなぜかその響きは俺の状況的に失礼な気がするな。

「……いいんだろうか」
「いいんだよ」

 あなたが選んだ人ならってか、J-POPみたいである。今の赤井さん見てたら誰でもそう思うよ、なんて笑われてしまったんだが、そんなに脳みそヤバそうなのか。
 それでもこの子に言われると、なんだか胸がすく気がする。
 まあでも問題は、向こうにとってはハタ迷惑でしかないってことなんだが。

「参ったな……」

 信号機のLED光がやたらと眩しく感じる。目を細めると若干和らいだ。少し前まで電球式だった気がするが、いつの間にか見かけなくなっていた。最早それに違和感も持っていない。


 もうすぐで事務所という頃、不意に鳴った着信音はコナン君の携帯のもので、蘭さんから所在の確認をするものだったらしい。そこいらのお母さんよりしっかりしている。対するコナン君はいつも通り素晴らしい切り替えで、今昴さんといるんだあ、と可愛らしい声を奏でた。
 するとどうやら、今日の毛利家は外食デーだったようで、昴さんもどうか、と誘われた。
 俺が返事をするまでもなくコナン君が承諾したため、ひとまず工藤邸に寄って変装を施し、一緒に行くなら邪魔になるだろうと車を置いて探偵事務所までてくてくと歩いて合流する。

「すみません、僕までお誘い頂いて」
「いいんです。その、予定していた人が来れなくなっちゃって」
「ありがとうございます、毛利さん。ご相伴にあずかれるなんて光栄です」
「ん、いや、おー。別にかまわねーよ」

 どうやら毛利探偵はちょっぴりご機嫌ナナメのようである。
 だが行きのタクシーで運転手とともに直近の事件を幾つか取り上げて推理の鮮やかさを褒めればみるみるうちに調子を取り戻した。ずいぶん簡単に乗ってくれる人だ。そういうメンタルの強さも探偵業を回す上で大事なのかもしれない。回転数が全てってやつだな。

 場所は米花にあるホテルの中華料理店だった。
 どうやらオーナーの関係者からの依頼を完遂した礼に招待されたんだとかなんとか。
 個室に通されて、丸い卓を囲って座り、勧められて紹興酒を頼んだ。陳十年だとかで毛利探偵はいやあさすが美味いですなあなんてノリノリで飲み始める。
 俺としてはなんとなく漢方チックな匂いがするようなしないようなといった感じで、これで実はそこらへんのパチもんで鑑湖水すら使ってないですと言われても分からんが、毛利探偵が満足しているんなら本物なんだろう、適当に話を合わせて笑っておいた。干し梅突っ込むのは何処の文化なんだろう。

「もー、お父さんてば……」

 蘭さんが眉を下げながらぼやいて前菜をつつく。コナン君が首を傾げるとその内幕を語ってくる。
 本来ここに来る予定だったのは、毛利探偵の妻妃弁護士だったという。事務所までは来ていたものの些細なことから口喧嘩をはじめ、その場では収まらず帰っちゃったんだとか。

「アイツがもうちょっとしおらしくしてりゃーオレだってなぁ……」
「いつも必要のないことで折れてくれてるんだから、殊勝な態度を取るべきなのはお父さんなんじゃないの?」
「どこがだよ! 人の顔見りゃグチグチ言ってるのは向こうだろうが!」
「言われるようなことしてるのはお父さんでしょ?」
「……けっ、どのみちアイツがいねー方が飯も酒も美味いっつーの」
「素直じゃないんだから……」

 蘭さんはお母さんとのご飯を楽しみにしていたらしい。そりゃあ嫌いでもないのに滅多に会えないとなればそうだろう。彼女曰く毛利探偵も実際のところは妃弁護士にメロメロとかなんとか。程度はさておき心底愛想が尽きたというのなら早々に離婚しているだろうし、あながち間違いじゃないんだろうが。
 夫婦の話は他人がどうのこうの口を出すことじゃないって言うしなあ。なんともアウェイ。

「この小籠包美味しいですよ」

 なんつって運ばれてきたものをむしゃむしゃ食べながら適当なことをぬかしたら呆れた目を向けられた。父娘喧嘩に乾いた笑みを漏らしていたコナン君にまで。
 自分でもちょっとアレだとは思うが、気は削げたようで、皆卓上の料理に意識を戻し、毛利探偵から口の中を火傷したとかでちょっと怒られたものの、あとは帰宅まで比較的和やかな食事が続いた。


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