13

 マスコミに囲まれていて近づきがたいとはいえ、それじゃあ諦めようという訳にはいかない。
 なにしろようやく掴んだ糸であり、我々は既にそれなりに大きく動いてしまっている。何かしらの成果がなければ手間金かけ損なのは勿論、今後の捜査にも影響が出る。なにせ増員までしているのだ、それで全くの徒労と浪費に終わったとなれば、本部や上層部への心象はよくないだろう。確保ならずともせめて可能な限り動向を追って、継続してそれを把握出来るようにしておきたいところである。
 というのが、ジェイムズが捜査官たちに己の見解と今後の方針として告げ、また言外に匂わしたことだ。
 それと共に早々退院するというなかなか寝起きの良い眠り姫の情報を受け、捜査官たちはすぐさま彼女を張る算段をつけた。院外に出てしまえば母数が増える分多少は紛れやすくもなるし車ならば姿も隠せ逃走もしやすい。マスコミ同様出待ちめいたことをして追い、組織の人間の接触がないか、周囲の人間に組織の人間らしき者がいないかを伺うらしい。
 彼女が移動をはじめたとの報告で慌てて出て行くジョディ達に続こうとすれば、

「シュウは残ってて! 私達が追うわ!」

 ってな感じでジョディにステイを言い渡されてしまった。
 だがそう言って先行の面子を引き連れて出ていってくれたのはむしろ都合が良かった。はなから追わないのはちょっと不自然だし、どうやって分断しようかとコナン君と頭を悩ませていたのである。

「きみもここにいなさい。あとは我々に任せるんだ」

 コナン君に関してはジェイムズがそう大人の顔で諌める形を取ってくれたおかげで、見事に大きな子どもと小さな大人の二人でのおるすばんチームが結成された。この場合合鍵ともう一方の面倒を任されるのは大人の方だろうな。
 ジョディたちの姿が消えたのを、一度コナン君と目配せをして確認すると、呼び寄せるためキャメルに連絡を入れた。楠田のドナドナ後本堂瑛祐の護衛の名目で病院を離れていた彼であるが、実のところはすぐに駆け付けられるよう、病院周辺の警戒も兼ねて付近に潜伏していてもらったのである。
 一方何やらメガネをポチポチ弄っていたコナン君は、俺が携帯を畳んだのと同時に口を開いた。

「予定通り。向こうはダミーだよ」
「そうか」

 顔に対してやや大きく普段使い向きとは言えないデザインで玩具にすら見えるコナン君の眼鏡だが、その実どっこい下手な市販品より遥かに高性能な阿笠氏手製のオーバーテクノロジー玩具であるらしい。
 例のメルヘンさんこっち見んな事件で問題となった付属の小型盗聴器の受信機になっているそうで、どこにスピーカーが入ってるんだかかけているだけで盗聴先の音声が聞こえ、レンズはプチVR仕様になっていて発信器の場所がPPIスコープのように表示されるとのことだ。
 しかも範囲は二十キロにも及ぶという。ちょっとした電探ちゃんみたいなもんである。子どもが持つには過ぎたるも過ぎすぎ、ガチャガチャのスパイセットなんぞ目じゃない代物だというのに、及ばざるとはならないのがコナン君の恐ろしいところである。
 それを作ったということもだし、集音器の方はこないだ俺が破壊したばかりだというのにストックがポンポコ出て来るあたり阿笠氏もなかなかにとんでもない。普通おじいちゃんの発明と言ったらせいぜい可愛く喋るぬいぐるみだの茶汲みマシーンだのが関の山だろうに、もしやあのおっちょこちょいでお人好しそうな姿は世を忍ぶ仮の姿で昔どこぞの研究機関の主任研究員だったとかじゃあるまいな。
 見た限り、そして話を聞いているだけでも既に手にする人間が人間ならばそこそこ重罰を受ける犯罪に利用でき得るものを作ってしまっているようなので、ぜひともそのまま子どもウケ狙いの町の発明家で留まっていてほしいものである。

 ともあれそれのおかげで敵味方どちらに対しても比較的目立たず行動できるのだからありがたい。
 諜報員コナン君によれば予定通り、つまり本堂瑛海こと水無伶奈は、ジョディたちが追いかける局の送迎車に乗ったふりをしてマスコミを病院から引き剥がし、そちらが囮になっている間に自力で運転して帰るつもりらしい。
 キールがやるにしても水無伶奈がやるにしても、理由付けの効く状況ではある。少なくともすぐさま不審には思われまい。

「キャメルさんは?」
「裏だ。もう着くそうだ」
「じゃあボクたちも行こう。動き出しそうだから」
「ああ、それだが、きみはキャメルの方に乗れ」
「え?」

 別にパワーウエイトレシオを悪くするバラストだよと言うわけじゃないが、危険運転になる可能性があるのに隣に子どもを乗せるのは避けたい。なにより懸念が杞憂でないという線が濃厚なのである。俺はもしかすると的にされるかもしれないし、そっちのほうが安全だろう。
 コナン君は一度きょとりとして俺を見上げ、それから眉根を寄せながら頷いた。

「……何か考えがあってのことだとは思うから、そうするよ。一応聞いておくけど、それ、引き算じゃないよね?」
「きみが心配せずともいい」

 小さな体が背伸びをして捕らえようとするノブを、先に掴んで開けてやる。飛び出すように一歩二歩と進んだからそのまま駆けていくのかと思いきや、コナン君は俺の視線の先で足を止めてくるりと振り返り、目を合わせてこちらをじっと見据えた。

「あのさ」
「なんだ」

 呼びかける声の調子は躊躇ったようでもあったが、表情にはむしろ鋭さのほうが強く宿っている。

「赤井さん、ちゃんと見てる?」

 何を、という問いは想定内であったようで、彼は俺がそれを口にせずとも続けた。

「――自分を」


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