07

 みーつけた。
 なんてホラーゲームの鬼みたいな気分になって、ちょっぴりニヤけてしまった。はたから見れば完全に不審者でありおまわりさんが見れば現行犯逮捕モノだったろう。

 大抵の病院でもそうであるが、杯戸中央病院は入院患者の長期駐車は原則不可となっている。
 外来の患者や面会者用の駐車場は自走式だがゲートがある上、関係者用の方にも警備員がいるので、ジェイムズ率いる俺たちのように病院関係者にコネのない人間が不正に利用するのは難しい。
 もし指摘を免れてしれっと停められているのだとしても、いざ緊急事態となって逃げるというときにいちいち金を払ったりゲートバーに体当たりしたりしていては間抜けにも程がある。確実性も低くリスクも高いため、あまり良い手であるとは言えない。
 かといってまさか徒歩でえっさほいさと逃げる気でもあるまいと、病院側に適当な理由をつけ調べてみたところ、患者搬送車のうちあまり使用頻度が高くなく予備扱いだという車のグローブボックスの奥から、なんとも見覚えのある黒い塊が出て来たのだ。なるほど盗んだナントカで走り出す予定であったらしい。
 グロックとはまたなかなか立派なものだ。俺のときもそうだったが、幹部でもないような男にもそういった、高価ではないにしろ日本では入手の容易くないはずの武器類を支給してくれるのだから、ひのきのぼうと五百ゴールドぽっちで放り出すどこかの王様よりは随分マシな組織である。
 ひとまずそのマガジンから弾を抜き去って再度仕舞い、車内をくまなくチェックして、念のため他の車も同様に探ったのちに、ヤンキーよろしくポケットをチャリチャリいわせながら院内へと戻った。


「下手に追い詰めずにいて正解だったな」

 机に転がした金色のどんぐり十七個を睨みつけ、ジェイムズは息をついた。
 物珍しいのか、椅子によじ登ったコナン君が、ハンカチ越しに一つ摘み、しげしげと眺めている。

「これで全部? 薬室は?」
「空だ。少なくとも車の方には他にマガジンや銃はない」

 マガジンセーフティが付いているわけではないにしろ、使うかどうかもわからないのに薬室に弾を仕込んでおくような妙なことする奴がいるのかは疑問だが、一応確認はしている。
 しかしそういうところを気にするあたり流石トカレフちゃんを知る男コナン君。
 九ミリパラベラム、先が尖ってるからホローポイントでなくフルメタルジャケットだねという地味な豆知識すら披露してくれた。正解。

「これ自体は普通のものかな」
「念のため本部に送って解析してもらおう。まあ、さしたる情報は出てこなさそうだがね」

 まあそうだろうな。せいぜい楠田陸道か組織の下っ端の指紋や、援軍のいない武器が大好きなうっかりさんが分かるくらいか。
 腕組みを解いたジェイムズが手を差し出すと、コナン君は持っていた弾をジェイムズの掌に落とし、椅子からひょいと飛び降りる。
 ちょうどそのタイミングでぶるりと震えた胸元の携帯には、見張りについていた捜査官から、楠田が食事を終え病室を出たとのメール。それを伝えれば、コナン君がニヤリと笑って病室を飛び出していった。
 似たような怪しい笑みでも可愛い顔立ちの子どもがやると違うもんである。しおらしくごめんなさいすれば現行犯だろうとおまわりさんも注意一つでにっこりだろう。

「赤井君、きみは少し休むといい」

 弾丸を回収して懐に仕舞うとそう言って、ジェイムズは部屋を出ていった。
 俺も続いてタバコでも吸おうかともちらりと考えたが、組織のネズミさんが院内を彷徨いているのなら止めておいたほうが無難だろう。おケツ丸出し男や水無伶奈のように、面識はなくとも向こうが俺の顔を知っているという可能性もある。下手にエンカウントしてあのおばあさんだーとなどと指をさされては元も子もない。
 一人になった部屋で、先程までコナン君が乗っかっていた椅子に腰掛け、とりあえずニューヨークの同僚にちょいちょいと連絡を入れた。
 一度調べて分からなかったものがそう簡単に覆るとも思えないが、捜し物はやめた時にひょっこり出てくるとアキミお兄さんも言っている。得られるものがあるかはさておき、やってみるだけやってみても損にはならんだろう。

 それから、なんとはなしにメールフォルダをつらつらと眺める。
 ぼっちなもので、殆どが部下同僚との業務連絡だ。しかもメールではあまり詳細なやりとりはしないため、楽園の鍵とかルラーダフォルオルとか言ってるわけではないものの、“例の資料はアルファに”だの“目標に動きなし”だの一見完全に厨二病患者の文面ばかりである。
 香ばしいそれらに混じって、今何してるとか飯食おうとか、まるで友達のような快斗くんのほのぼのメールがちまちまと入っている。私用とごっちゃにするのはどうかと自分でも思ってはいるが、結局ずっとそのままだ。フォルダ分けと保護で取り敢えずの区別を付けているだけ。

「……」

 一番下に埋もれたメールにたどり着くまで、そう時間はかからなかった。
 無意味、無意味か。分かってはいるんだが。


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