06

「左下のミニマップをよく見るんだ。サイレンサー不使用での発砲時とセンサーやスポットでマークされた敵の位置と向きが表示される」
「ああ、これですね。地形と照らし合わせて敵の射界に入らないように距離を詰めればいいわけだ」
「そうだ。まあ、コンクエストじゃキルデスが全てじゃないから、難しいと思えば回避したほうがいい」
「この右上の敵は?」
「いける」

 兵は拙速を聞くもというが、巧く速ければなお良い。彼にロックオンされた工兵は敵の接近に気づくことなくその場に崩れ落ちた。

 バーボンくんは意外なことにFPSに興味があったらしい。
 そういえばラムちゃんに預かった荷物の中にあったモデルガンを気にしていたし、もしかしたら銃器フェチなのかもしれない。
 それならそうと早く言ってほしい。
 明らかにゲームに興味なさそうな態度だったしただの拗らせたイケメンにしか見えず、単にラムちゃんへの義理と社交辞令で話を合わせてくれてるだけなんだと思って、こんな引きこもりのオタクと友だちになりたいなんて冗談はよしこさんとかなんとか言って一度追い返してしまった。

 友だちは欲しいに決まっている。
 ただこれまで、経験値欲しさに寄生してきたりアイテム乞食して貰ったらトンズラ転売したり、口だけいっちょ前でチキンプレイトレインMPKするような輩なんかばかりにぶち当たって心がバキバキ折れた末ソロメインになっていただけなのである。俺をネナベだと思い込んでチャットエッチあわよくばオフパコしようと粘着してきたおっさんもいた。
 FPSだってラムちゃんがいなければ殆どチームデスマッチで単に殺し合いしてるだけで、拠点の争奪や空母の破壊なんかの協力プレイが必要になるモードはあんまりやっていなかったのだ。今よく一緒にプレイする分隊はラムちゃんが呼んだ子か、たまたま野良で気があった子ばかりで、連携はするが、友だちというほどでもない。
 リアルでも繋がりがあるのは正真正銘ラムちゃんだけなのである。もし本当に友だちが増えるのなら嬉しい。
 しかも軽くやらせてみたところ、バーボンくんは飲み込みが早く手先が器用で、ぎこちない手付きはあっという間にさまになった。
 スナイパーライフルこそイマイチだったものの、カービンやLMGの扱いはそれなりにうまく、AIMは初めてやったとは思えないほど滑らかにばっちりでなかなかのもの。
 一通り操作の確認と練習をした後、新兵バーボンくんは10キル1デスで拠点裏取りも成し遂げコンクエストをやり終えた。
 普段生身の人間に布教することなんてないし、あまりにするするとこなしてくれるもんでついつい楽しくなって夢中であれこれやらせてしまった。
 何か用事があって来たんだろうと聞けば、バーボンくんは、

「え? ええと――そう、こうして親交を深めるためですよ」

 とえらく可愛くにっこり笑った。
 こないだのアレをなにやらそこはかとなく胡散臭いと感じてしまったのが申し訳なくなるほど。


 それからもバーボンくんはちょこちょこ遊びに来てくれて、俺の布教を笑顔で受け、アカウントまで作ってくれた。
 調子に乗った俺は、バーボンくん用にPCを組み、モニターからキーボード、マウスに椅子まで揃えてしまった。音が混じるからバーボンくんの部屋に設置しようかとも言ったが、バーボンくんは一緒の空間でやったほうが友だちっぽいだろうと通ってくれている。
 一を聞けば十を知るというか、バーボンくんはゲーム特有のシステムやプレイヤーの思考さえ教えてやれば後は勝手にみるみる成長して行った。
 今じゃ音で敵の位置が分かるし、マップごと兵科ごとの立ち回りも板についてきて、コンクエストもオブリタレーションもキャリアアサルトもお手の物だ。
 何でもだいたいこなせるが、特にC4や地雷を戦車に気づかれず貼り付けたり敵の動きを読んで待ち伏せ爆破したりするのが上手い。心の中でこっそりバーボマーと呼んでいる。


「……あなた、煙草吸うんですね」

 いつもより少し長く連戦したある日、ちょっと休憩しようと一旦サーバーを出た後、そう言われてはっとした。
 並んで座るバーボンくんの視線の先は俺の口もと。うっかり一人の癖で無遠慮に火をつけてしまったのである。

「悪い、嫌だったか」
「僕は大丈夫ですよ。ここあなたの部屋ですし。ただ、そういうことしなさそうに見えるので」
「前までは吸わなかったな」
「へえ、何かあったんです?」
「貰ったんだ」

 一年ほど前に泊めた子から、お礼なんだか場もたせなんだか差し出されて吸ったのが人生初めてだ。あれは苦くて吸いにくかった。そう言うと、あの子はわざわざこれを買ってきてくれたのである。それからちょこちょこ暇つぶしや口寂しいときのお供にしている。

「誰に?」
「秘密」

 一応友だち同士でトラブルが起きないよう、泊まりに来た子たちの話は本人の了承を得ない限りラムちゃん以外には話さないようにしているのだ。
 誤魔化すように「吸うか?」と差し出してみれば、バーボンくんは軽く礼を言って受け取った。咥えたところで火もつけてやる。

「……これ……」
「口に合わなかったか」
「いえ……あの…………次から遠慮させてください」

 ガラムはバーボンくんの好みではなかったらしい。
 やめてもいいぞと灰皿を差し出したのに断り、せっかくの顔立ちが台無しになるだいぶ残念な表情で、居残り給食のようにして吸っていた。
 結構粘り強いし意地っ張りだなバーボンくんは。


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