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 急に登場人物が増え、どこにどう手を加えれば良いのかわからなくなる――かと思ったが、実際そんなに選択肢は増えていないようだった。
 何を言おうとどう駄々をこねようとバーボンさんは出ていってしまう。黒い男性は煽るような皮肉げなセリフのレパートリーは数種あれど、私の相手はさっぱりしてくれず、基本的に暖簾に腕押し取り付くしまもない。コナン君は多少会話に応じたりはしてくれるけども、バーボンさんほど意思を汲み取ろうとはしてくれない。数分留まってくれるだけで、最終的には男性に呼ばれてどこぞへ行ってしまう。それを追いかけようとすると、少女が引き止めてくる。
 数度繰り返して希望を感じたのはこの少女だ。かたくクールな表情で、そっけない言葉が多くはあるものの、迷いや同情のような感情が見え隠れする、気がする。必要なければNPCのモーションにそんな工数かかりそうな微妙なニュアンスをわざわざ加えるわけもないので、きっと気のせいではないのに違いない。

「部屋に戻りましょう」
「だめ、ばーぼん」
「待っていれば帰ってくるわ」
「だめ、あぶない、ばーぼん、べるもっと」

 反応語句がないかとやたらめったら適当に言葉を発する私に対して、仕方ないやつとばかりに少女が首を振りため息を付く。しかし、

「あのおかた」

 といった瞬間、サッと表情を変えて弾かれるように私を見た。

「――組織の?」
「あぶない、ばーぼん、べるもっと、いってらっしゃい、だめ。いく、いっしょ」
「――」

 少女はなにやら思案を巡らすような顔をした。

「あなたは何を知っているの?」

 いや何も知らないけども。教えてほしいくらいだけども。ここは押したほうが良いかもしれない。私のサイドエフェクトがそう言っている。
 少女が反応したのはあのおかた=Bその言葉をどこで手に入れたか。例のプロージット事件の帰り、ウォッカさんに迎えに来てもらい、その車に乗って走っている最中のことである。口にしていたのはアニキさんだ。確かお連れする≠ニかなんとか。そしてあれはロードする前のデータでのことだ。ベルモットさんが乗り込んできて、バーボンはもう戻ってこない≠ニ言った。多分それがイコールBAD ENDだったんだと思う。やり直してバーボンさんと一緒に乗り込んだ車内では、アニキさんはそういうことを口にしなかった。バーボンさんがやってきたことでお連れする≠アとにはならなかったのか、バーボンさんにはその話をしたくなかったのか。
 反応するということは、少女はあのおかた≠知っているか、少なくとも心当たりがあるということなんだと思うけれど、ここの人たちみんなそうなのだろうか。アニキさんとここの人たちは面識がある?

「あにき」
「それって、まさか……ジンのこと?」
「うぉっか」
「あの二人が何か言ってたの?」

 ふたり、と纏めた。いつでもいっしょニコイチとは限らないが、ウォッカさんとアニキという単語を並べて訂正もしなかったのだ、あのアニキさんとはジンとかいう名前なのかもしれない。どこぞのトリプルハンターみたいだな。
 このシーンで出ていく前のバーボンさんは、ベルモットは僕が≠ニ言っていた。ここの人たちはあの車に乗っていた人たちのことを知っている。
 少女の表情は険しい。二人分の名前を口にした時の調子はずいぶん冷ややかで刺々しいものだ。仲良しさん、というわけではないのだろうか。バーボンさんがベルモットさんについて言及していた時の声色もまたかたいもので、緊張が混じっていた。

「なんでもいいから教えて。あの人たちは何をしていた? 何を言っていたの?」

 関わりがあって仲が悪くないというなら普通に本人たちに聞けばいい。こうして私に聞くということは、一方的に知っているだけか、面識はあっても聞くような仲ではないか。その上で知りたがるのは、二人の行動が少女たちに影響するから?
 あのおかた≠お連れする=\―もしやあれは、今のバーボンさん、それからここの人たちが知らないことなのではなかろうか。

「ベルモットも知っているのよね? 危ないって、何のこと?」

 ふと、部屋のテレビの映像を思い出した。女優の帰国。あの時インタビューされていた女優の姿、なんだか見覚えがあると思っていたが、そうだ、ベルモットさんに似ている。サプライズ出演で、何かのイベントがあるから国に帰るのだと言っていた。

「べるもっと、あのおかた、かえる」
「まさか――」

 少女の反応は悪くない。というか深刻さを増した。

「でも、博士も江戸川君たちももう――」
「いく、ばーぼん」

 ダメ押しに言ってみたそれで、何かのフラグが立ったらしい。
 少女は覚悟を決めたような顔で、私の手を取った。


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