C-1

 江戸川コナンとなって、不本意ながらも小学校に二度目の入学をしてしばらく。
 ある日、居候先である毛利探偵事務所にやってきた女性は、広田雅美といった。
 彼女の依頼は、連絡の取れなくなった友人を探してほしいというもの。
 しかしそれにおっちゃんが渋い顔を見せる。もともと、依頼人が美しい女性か、しこたまヨイショされるか、よほど深刻な事件でなければなにかしらいちゃもんをつける人だ。

「大学生が二、三日連絡取れないのなんて別におかしなもんじゃねえよ。どうせ遊びかなんかでその辺ほっつき歩いてんだろ」

 そう言ってやる気のないおっちゃんを焚き付けたのは蘭だ。
 きっと自分と園子あたりに置き換えて考えたんだろう、お父さんじゃないんだから、可哀想よ、とかなんとか言って、広田さんに申し訳なさそうにお茶を出して尋ねる。

「ちなみに、その友達ってどんな人なんですか?」
「南洋大学の子なんですけど……」

 これが彼女です、と広田さんが見せた写真には、明るい髪を巻いてばっちりと化粧をした派手目の女性が写っていた。
 黒髪をお下げにしてメガネをかけ、服装も地味な広田さんとは対照的だ。あまり仲良くつるむようには見えない組み合わせたが、女の友情ってぇのは分かんねーからな。

「おっ、ギャル」

 なんて鼻の下を伸ばしたおっちゃんは置いておいて、蘭と一緒にあれこれと質問をする。

 曰く、広田さんと彼女は大学こそ違えど小学生からの仲で、今でも度々会って遊んでいたんだとか。
 三日前もそのはずだったが、約束の時間を過ぎても、待てど暮せど友人は来ない。何かあったんだろうかと電話するものの繋がらず、メールの返信もなく、家に行ってみれば留守だった、と。それから三日間ずっとその調子らしい。

「何か事件に巻き込まれているのかも……」

 蘭のセリフに、広田さんの肩がビクリと跳ねる。そして彼女はぎゅっと眉を寄せ、ひどく不安そうな顔をした。そこには明らかに焦燥の色もあって、ただ連絡が取れないのを心配するのにしては些か過剰な反応に見えた。


 結局おっちゃんも多少は気になったのか、はたまたただギャルに会いたくなったのかは定かでないが、同じ女の子として蘭の後押しもあり、依頼を受けることとなった。
 連絡先をもらってから、授業があるという広田さんとは一旦別れ、まず向かったのは、その友人が借りているアパートである。
 おっちゃんは「なんでお前たちも来るんだよ……」なんてげんなりしていたが、蘭が「だって気になるし、心配なんだもの」と言うのに便乗してオレもタクシーに乗り込んだ。

 教えてもらった部屋は確かに留守で、おっちゃんが大家に事情を話し開けてもらったものの、三日前後帰っていないのは間違いないだろうという状態だった。
 風呂場や洗面台、シンク回りなどに水気がないし、冷蔵庫の中には調味料や賞味期限の遠いものしか入っていない。
 服があちこちに散らばり、キャビネットや扉は開けっ放し、床にあれこれとものが落ちていてまるで物取りが入ったような有様だったが、大家の話では、彼女はもともとゴミ出しなんかもまばらで、部屋はいつ訪ねても汚かったんだそうだ。
 写真での身なりは小奇麗にしていたが、人間わからないものだ。おっちゃんも若干引いていた。

「あれ?」

 可愛らしくちいさなちゃぶ台の上に開かれたままのノートパソコン。周りには化粧品や鏡、アクセサリーなどが置かれている中、その光学ドライブの横だけものが乱雑に避けてある。
 それだけならば部屋の惨状と同じ、家主のずぼらさからくるものだろうが、あたりを見回しても、CDやDVD、ROMなんかの、ドライブを使うようなものが見当たらない。
 もともとそばにあったのだろうものは、ラベルを見るにマニキュアとつけまつげ用の接着剤らしかった。ものの扱いは粗雑ではあるようだけれど、他の化粧品は場所はともあれ、上下を違えずしっかり置かれている。――それなのに、ここだけ?

 近くで半端に書き込みがある壁掛けカレンダーをペラペラ捲って眺めていた蘭の、上着の裾をちょいちょいと引く。

「ねえ、蘭姉ちゃん。この接着剤とかって、横にしてたらダメなんじゃないの?」
「え? そうね……こういう中身が固まりやすかったりハケが付いてるタイプの瓶は、ちゃんと置いとかないとすぐ使えなくなっちゃうわよ」
「……蘭姉ちゃん使ってるの?」
「ううん、園子とか田代さんたちがよく言ってるから」
「だ、だよね……」
「お前ら何やってんだ、早く来い、次行くぞ次!」

 なんとなくホッとしていると、汚い部屋にガッカリしたらしいおっちゃんがせっついてくる。
 転がっていたブラジャー以外さして見もしてないようなのに、「ここじゃ何もなかったみてえだな、やっぱりどっか泊まり歩いてるだけなんじゃねーのか」なんて言ってる。ヘッポコな上にどーしようもないスケベだ。


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