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 危ないからさっさと帰ってほしかったのだが、少年はずいぶん好奇心旺盛なヤンチャさんだったらしい。
 やたらとアレコレ聞いてきたものの、“彼女”の前でべらべらと喋るわけにもいかず、かといってちんたら相手をしていては逃げられてしまう。
 最悪少年たちが死んだらフェデラルビルにモンペが殴り込んできたりするんじゃないか。いや、この場合モンスターでもなんでもないか。鮮やかにクビだな。
 その他諸々、どうすっかなあこれ、と考えていたら、背後の“彼女”が案の定銃を構えようとしてきたので、消音器部分を撃ち、それにビビったところを適当に脅して無理矢理帰らせた。
 ここまでしないといけないなんて、なんとも厄介な年頃である。
 はたして倒れた少女は大丈夫だったんだろうか。

 ”彼女”は少年たちが去ったのを確認すると、意味ありげな視線を送って手招きをし、突きつけられている銃にも構わず、軽やかに階段を登って建物内に入っていく。逃げるものではない動きに、その背に弾を浴びせるようなことはしないでおいた。
 追いかけて続いた先で、“彼女”がおもむろに顔面の皮膚をベリベリと剥がしはじめたかと思うと、その美しい金髪を広げながら端正な顔を表す。ちょっとグロいな。
 サイレンが聞こえていたからだろう、あの思わせぶりな間をあまり持たせず、すぐに言葉を紡いだ。

「――見逃してくれない? “ママ”」
「難しいな」
「あら、私には冷たいの」

 銃声は周辺を探っていた部下の彼にも聞こえたことだろう。そんなに離れたところにはいないはずだし、エレベーターがなくとも4階程度ならばそうかからずにたどり着くはずだ。
 生きて捕らえようと思うなら、ここでまたドンパチやるより、応援が来るまで引き止めていたほうがいいか。既にそれなりの傷を与えているし、下手にやれば殺してしまいそうだ。

「あなたが子供好きだったなんて。意外だわ。扱いは下手みたいだけれど」
「そういうわけじゃない」
「じゃあ賢い猫がお好き? あるいは――彼女が気に入ったのかしら。然しものスナイパーも、ああいう子に弱かったりするのねえ」
「……」

 痛みに少々汗をかきながらも、彼女の言葉は流れるようだ。
 ニヤ、と笑うその表情が、どうしてもあのウイスキーを思い出す。よして、下心だったんです。

「ねえ、お互い様でしょ、嘘つきさん。私だって見逃してあげてるのよ。これからも手を出さないと約束してあげたって良いわ、あなたの“エンジェル”だけは」
「ずいぶんここで捕まりたくないみたいだな」
「あなた、自分が何処を撃ったか分かってる?」
「元気に飛んでたみたいだが」
「同じところにぶち込んであげたいわ……」
「やるか?」
「冗談よ。……なんなら、“ラフロイグ”も、飲まずに取っててあげる。あなたが死ぬまでね。美味しくなるわ」

 思わず眉を顰めた。強い癖を持つアルコールの味が、ぶわりと口の中に広がったような気がする。


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