07

「末端の売人はすぐ捕まえられたのよ」

 まあ、当たり前だけれどね。と、彼女は俺のデスクで肘をつく。


 言い渡されたぶんの休暇を消化した俺は、無事職場復帰を果たしていた。
 とはいっても、潜入捜査中の三年間はブランクと変わらないということで、いきなり捜査チームに入ったり現場に行くということはなかった。というか以前何やってたかなんて全然思い出せなくて正直新卒みたいなもんだけど大丈夫なのか俺。
 ここ数日はフロアを見て回ったり、セミナーを受けたり、ミーティングに顔だけ出したり、事件のファイルなんかを読み込んだりして過ごしていた。
 
 味はわからなくても腹は減るもんで、そこらへんのデリでサンドイッチをテイクアウトし、自席で適当なファイルを読みつつ頬張っていた昼時。
 捜査から帰ってきたのだろう、数人の同僚がぞろぞろと連れ立ってドアをくぐってきたかと思うと、そのうちの一人はまっすぐに俺の方へツカツカとやってきて、近くにあった別の同僚のイスを俺の隣へ引き寄せて、どかりと腰を下ろした。
 いつも見た目に相応しく女性的な所作である彼女らしくない。その荒っぽい歩き方や座り方を見るに、どうも捜査は順調とはいえないようだった。

 そのまま、ジョディは腕と足を組んで語り出す。
 曰く、最近問題になっているとある犯罪グループに、酒の名で呼ばれるメンバーがいた。
 もしかすると俺たちが追っている組織の一員かもしれないので、その件はジョディのチームの担当になったそうだ。酒の名をもつ人物は、麻薬の売買を指示しマージンを取っていたらしい。
 末端の売人を捕まえ、司法取引を持ちだして情報を引き出すところまではいったのだが、そこから先がなかなか進まない。
 どうも慎重で頭が回る人物らしく、指示ややりとりは間接的で足がつかない方法を駆使しており、めったに姿を見せないためはっきりとした容姿についても分からず、行動の跡を追いづらい。

 その他にもグループの周辺情報や捜査の過程等を、ジョディはつらつらと淀みなく述べていく。

「活動範囲に監視カメラが設置されてる店や通りもあって、片っ端から見て回ったんだけどね、だめだわ」
「ホー……」

 美味しいと評判のサンドイッチだったが、やはりただただ口の中の水分を奪われるだけだった。
 何か飲みたいなと呟くと、ジョディは一度口を開きかけて閉じ、サッと席を立ってコーヒーを淹れてきてくれた。別にパシる意図はなかったのだが、礼を言ってありがたくいただくことにする。
 一口飲んだところで、そういえば日本にいたころ、バーボンが食事や飲み物を出す時やたら”熱いだろうものを口に入れるときは少し時間を置いてからにしろ”と言っていたな、なんてことを思い出して、二口目の前にサンドイッチを挟む。

 ジョディはそんな俺の様子を見て軽く気の抜けたような息をつき、自分のぶんのコーヒーカップを手に再びイスに戻ってきた。



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