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 ラプアマグナム弾ってすごいんだぜ、1.5km先の目標に届くんだ。

「やるじゃないか! ライ!」

 ばし! と背中を叩かれた。痛くはないのだが、今日は伏射だったので、コンクリートに接した肘に響く感じがした。
 はじめ何度かはよくあれこれと噛み付いてきたキャンティだったが、最近は割りと気安く接してくる。特に、狙撃の任務ではずっと上機嫌だ。

「やっぱりタマが綺麗に当たってエモノがぶっ倒れるとすっとするねえ! しかも頭!」
「調整がうまくいったようだ」
「ボアサイターかい? アタシはやっぱ実射のほうがしっくり来るんだ、もっとガンガンぶっ放せればねえ」

 キャンティは癖が強いが、慣れてくると付き合いが楽な相手でもあった。というのも、変に仕事で足を引っ張ったり水を差したりするようなことをしなければ、大抵ゴキゲンでひとりきゃらきゃらと笑っているからである。
 恐らく彼女も、俺がなんのかんのと口出ししないのがやりやすいんじゃなかろうか。

 バーボンたちを含め四人で任務を行ってから別の任務が何度かあったが、何を思ってか殆どキャンティとのペアだった。あの地味にしたたかな男が運転手をすることはあったものの、バーボンは探り屋としての仕事が忙しいらしい。
 そして、キャンティと組んだ任務の全てが以前貰ったAWMを使っての長距離射撃だ。キャンティが撃つのを補助したり、あるいはその逆であったり。

 それらが何の意味がある任務なのかはいまいち分かっていない。
 距離が距離なぶん、狭いスコープの外側で何が行われているのか具体的にはわからないし、何を喋っているのかも見当がつかない。そもそも指示も、場所を指定された上で”紺色のスーツの男を殺れ”だの”十時にその場所に来る人間のどこでもいいから撃て”だの、本当に必要最低限のものだけ。

 キャンティに聞いても、彼女も何も把握していない。
 キャンティは死んだ人間の過去にも、これから死ぬ人間の未来にも興味がない。なぜ死ぬのかよりも、その瞬間どうして死んだのか、それも自分の弾がしっかり当たったのか否かにしか関心を持っていないからだ。彼女にとって大事なのは、気持よく引き金を引けたかどうか。
 そのため、余計な御託を聞かされることなく、準備と撤収を含めたかっきりの時間しか知らされないのは、待つのが苦手なキャンティには快適な狙撃ライフのようだった。

 もしかしたら、こうやって情報を制限されているのかもしれない。
 ガバガバな組織なのにそういうヒネり方だけするのかどうかは甚だ疑問だが。


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