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振り向いたバーボンの後ろには、のそりと立ち上がった社長が襲いかかろうとしていて、さながらゾンビゲーのようだった。急にジャンル変えるのやめてくれませんかね。いつからホラーモノになったんだ。武器がカメラじゃなくハンドガンでよかった。 とりあえず牽制に一発、倒れたところに近づいてしっかり狙いを定め、止めの一発を頭部に撃ち込んだ。小脳、延髄あたりはバッチリ破壊されたんじゃなかろうか。 夢の中では何でもアリだ。ここから更に起き上がってミチミチと謎の生き物に進化してしまうかもしれないと、暫し玄関ポーチタイル沿いに血溜まりが広がっていく様子を眺め、動かなくなったのを確認する。 『やれやれ、ライがいて命拾いしたね、バーボンは』 「キャンティ」 『外しちまったのは悪いけど、文句ならそこで射線上をちょろちょろしてたおぼっちゃんに言いな』 「位置の伝達をしていなかったのは俺だ、すまないな。急拵えのポイントでよく撃ってくれた。撤収するから、三本東の道路に車を回すように言ってくれ」 『ふん……あいよ』 万が一の護身用で持ってきたサイレンサーもついていない拳銃だったため、思いの外いい音が響いてしまった。さっさとその場を離れないと人に見られてしまう。 先ほどの場所に突っ立ったままのバーボンの手から、指紋を拭っていた布ごと抜きとって鍵だけを死体の近くに放り、行くぞ、と声をかける。 「あ、ああ、はい……」 返事はしたものの、のろのろとした動きで付いてくるので、腕を掴んで引っ張って歩く。いつもと逆でなんだか新鮮だった。 ちょうど俺たちが指定の道沿いに出る頃、黒塗りのバンが路肩に寄せてきたので、停まった少しの間にスライドドアを開けてバーボンを押し込み、自分もさっと乗り込んだ。 ドアを閉めると同時に走りだした車内で、インパネに足を乗せて助手席に座るキャンティが、不満気にため息を漏らす。 「はあ、すぐ済むシゴトだと思ったら、二時間も余計にかかっちまった。使えない探り屋のせいでね」 「……どうもすみませんね、クソ男で」 「いや、勘付かれていたもう一人の方だろう」 「そうだよ! 全部そこのクソ男に任せりゃいいのにさ!」 え、と若干間抜けな声を出して、バーボンは窓に向けていた視線をキャンティの方へと移した。 オモテ(仮)の顔で親交を持つバーボンが、会社のパーティ程度でわざわざ端末をハッキングして、しかもそれを気取られるわけがない。ないはず。ないよな? 「もちろん射撃はアタイが百倍上手いけど、ああいうのはあんたの十八番だろ。アタイにゃ面白くもないのに脂の乗ったジジイ相手にニコニコ笑ってゴマ摺るのは無理さ、考えただけで鳥肌が立つ!」 「…………そうでしょうね」 「帰ったらジンに文句言わないとね! どーせアイツが変にこねくり回したんだ!」 企画担当はジンだったらしい。やはり面子は嫌がらせの線が濃そうだ。 何故か幾分機嫌の直ったキャンティが、ツラツラとジンの悪口を言いまくり、それに対して運転手の男が、さしすせそを上手に駆使して相槌を打つというやりとりが、組織の建物に着くまで続いた。名前も覚えていないが、それなりにしたたかに生きそうなやつである。 それにしても相変わらずガバガバな計画だったな、大丈夫かこの組織。 |