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 女の子から見ると、俺はロリコン丸出しなんだそうだ。
 正直ちょっと、いやだいぶショックだった。思わず有希子さんお気に入りのティーカップを割ってしまうほど。
 時間が時間だったので翌朝に電話して謝ったものの、まあそんなこと自白されててめー何してんだとは言えまい、有希子さんは楽しげな口調で、今度はもっと素敵なのを買ってくるわ、とフォローしてくれた。心が苦しい。
 そりゃ夢見る少女にとってはいいコトかもしれんが、うっかりそれをお母さんにでも話してみろ、あらいいわねえなんてほのぼのするどころか危機感しか沸かないはずだ。まともな人の親ならばそんな男のところに遊びに行くのはよしなさいと十人が十人止めるだろう。更にターゲットが阿笠氏に預けられ他に身寄りがないあの子となると悪質さが際立って見えるに違いない。いくら俺にその気がなかろうと、世間はそんなもんなのである。

 せめて自分から不必要にベタベタ近づくのはやめよう、と考えていた矢先。
 休日の朝、チャイムが鳴ったと思ったら、扉の向こうにはコナン君とあの子がいた。

「ほら、大丈夫そうよ」
「そりゃ今は……」

 なにやら俺の姿を見て顔を見合わせたかと思うと、少女が仏頂面で腕を組んだまま、ツイと顎をあげた。

「――車出してちょうだい」
「……Yes, ma'am」
「なにその返事」

 あまりにパキリと小気味いい言いざまについ。
 話を聞くに、阿笠氏や子どもたちとスキーに行こうとしたはいいものの、二人で忘れ物を取りに戻ったらスキーバスに乗り遅れる時間になってしまい、毛利氏は朝方まで飲んだくれていて使い物にならないし電車を乗り継いで行けば到着が夕方になってしまうから連れて行けということらしい。
 どうも少女が先日のコナン君誘拐の際にこいつ足程度にはなるぞと思ったようである。
 車に乗り込む前コナン君に、無理なら適当に説得して自分たちでなんとかするからいいんだよとこっそり囁かれたけれども、その彼ですら誘拐される世の中だ。流石にそれじゃあがんばってとほっぽり出せない。
 しかし使ってくれるのは全然構わないとして、これ二人っきりとかになったら言い訳できんな。

「あ、高木刑事」

 道中コナン君が声を上げたので車を停めると、すぐ脇の歩道に見たことのある人物がいた。確か恋する刑事さんだ。張り込みの仕事帰りで、コナン君との会話からすると少し前に大変な事件があったらしい、以前より若干やつれている。
 直後、彼らの和やかなやりとりを断ち切るように叫び声が聞こえた。落ちたとかなんとか。

「この向こうの通りか……?」
「高木刑事、乗って! とにかく現場に行ってみようよ! ――昴さん!」
「はい」

 合点承知と扉を開け、高木刑事を乗せて声のもとまで向かうと、先程の草臥れたさまから一転きりりと凛々しい表情になった彼がコナン君と一緒にえらい勢いで飛び出していく。
 そして、あっという間に現場を取り仕切り捜査を始めた彼らは、落っこちてきた死体が事故や自殺でないことを悟ると、割り出した容疑者たちとともにマンション内へ入って行ってしまった。俺と少女は完璧に置いてけぼりで。どうもコナン君は事件になると周りが見えなくなるきらいがあるようだ。その集中力は大したもんではあるが。
 ううんこりゃ二人っきりだな。フラグが立ったなどと言う暇もなかった。
 少女もやや呆れた様子である。意外とべっしゃり血の飛び散った死体を目の前にして大分冷静だ。

「部屋なんて見て何か分かるのかしら」
「直前まで自室にいたか否かは知れるでしょうねえ」
「その痕跡があれば犯行が不可能だということ?」
「まあ、概ね。犯人が体を一つしか持たなければ」
「……そういえばあなたもホームズがどうとか言ってたわね」
「読んではいますが、嗜み程度です。彼ほどではありません」
「あんなの一人で充分よ」

 どうやら少女はオタクがお好きじゃないらしい。この子もリロード無制限マシンガントークでグイグイ布教されたんだろうか。慣れないとあの熱量はキツイかもしれんな。
 ひとまず車の方へ踵を返す少女に、いくらか距離を取りつつ追従した。

「行かなくていいの?」
「運転手がいなくなったら駐車になってしまいます。それに女性を一人にはできませんから」
「そ」

 コナン君一人ならば見た目が小学生だからとうまく運ばないこともあるだろうが、今は顔見知りで仲も良いらしい現職の刑事がいるのだ。指示がないどころか目もくれてないあたり俺は特に必要ないのだろうし、彼のことだから外野がなんやかんや余計なことをしなくてもどうにかしそうである。
 現に、しばらく待ったところ、高木刑事たちを引き連れ再度エントランスから現れたコナン君は、事情聴取のため警視庁に移動すると言った。完全に警察に馴染んでいる。


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