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パン、と発砲音がした。路地の向こうの車あたりからだ。そして、焦った調子の少女の声が背後から飛ぶ。 「あれよ、江戸川君が乗ってるの!」 ここまで連れ回しておいて発砲とは、切り札切って逆上されたか、不測の事態でも起きたか。ともかく発進していく車を追いながら、通報するよう、ついでに車の特徴も阿笠氏から毛利氏らに電話して伝えてもらう。 背後から見た限り、殺人犯が乗っているという青のスイフトには、成人の影が少なくとも二人分は見える。 「犯人は複数ですか?」 「いや、一人という話じゃったが……」 「共犯がいたのか、本物のお出ましか、ですかね」 コナン君がいるのだからわざわざ大人の人質を増やす必要はないだろう。 彼があんまりにも扱いづらくて人質の人質を取ったということもありえなくはないのがコナンさんのカッコイイとこだが、その場合犯人は尚更自分で難易度上げてるようなもんだな。ルナティックかノーホープモードだ。 「ど、どうするんじゃ」 「まあ、すぐどうこうということもないですよ。特殊なケースを除けば、人質は生きていてこそ価値がある。逃げ出すための蜘蛛の糸を自ら断つような真似は早々しないでしょう。こういう場合妙に煽ったりしなければいいことくらいコナン君も弁えてるはずです」 「でも、このまま追いかけてたって状況は変わらないわ。それに警察の姿が見えて犯人がより恐慌状態に陥れば、構わずに撃つかもしれない……」 「そうですねえ……」 目標は偽パンダさんではないし、パトカーで囲い込む手は使えないだろう。お遊戯会する人員もいない。今度こそダイナミックちょっとすいません切りの出番かな。 「いざとなったら車でもぶつけます?」 「あなたねえ――」 窘めるような少女の声が不意に途切れ――直後、背後から白のFDがえらい勢いで追い抜いてきた。 なんだなんだと思っていたら、FDはあっという間に犯人の車の前に躍り出て、その横っ腹に思い切りよくスイフトの頭突きをくらう。 ドゴ! と激しい音が響いた。なんとまあ。 「な、なんじゃあ――?」 もちろんどちらも派手に止まったので、それを避けるようにハンドルを切り徐行して、ひとまず付近に停車させる。 「先を越されてしまいましたね」 「本気で言ってたの?」 「やる価値はあったみたいですよ」 「結果的にはね」 しかしFDでアレなのだからこの車でやったら阿笠氏のメタボが物理的に解決してしまうハメになったかもしれない。しなくてよかった。 車内から様子を伺っていると間もなく、今度はコナン君を抱えて車から降りてきた犯人が、車上に乗り上げてきたバイクに車輪で頭を殴り飛ばされていた。それ普通に死ぬやつ。 「……」 「……」 「……助かったようですね」 「……結果的にはね」 廃車待ったなし状態のFDから出てきたのは、毛利父娘に金髪の男性だ。うーんとっても見覚えあるな。いやないかな。ないと良かったんだがな。色黒に見えるのは夜で暗いからとかじゃないだろう。男気溢れる運転手は彼だったらしい。 背後の道路上部をちらりと伺えば、立体交差のもう一本にはハーレーが停まっていた。とっても良いスタイルのライダースーツを纏った体にはちゃんと頭が乗っているからデュラハンというわけでもなさそうだ。あっちも見たことあるお姉さんだな。参った。 コナン君の読みはいつだってアタリのようだ。毛利氏と違ってギャンブルと株だけやっていても生きていられそうな人種である。 このまま留まって少女の姿を見られるのはまずいか。 「ともかく、僕らはこのままここにいても大した貢献はできなさそうです。帰りましょうか」 「……そうね」 助手席で息をついた阿笠氏が、まったく慌てたわい、とぼやく。もっと普段の生活でその緊張感を持っていてほしい。 しかし鍋物でよかったもんだ。こないだ誘拐と窃盗モドキが来た時も料理中で、すぐ飛び出たもんだから茹で途中のパスタや揚げはじめだったコロッケ予定の物体は火を止められた湯や油の中ででろでろぐずぐずになっていたのである。流石に食べずに捨ててしまった。腹が空いているわけでもなかったので別にいいっちゃいいのだがエコじゃないな。 その後、二人を阿笠邸に送り帰ろうとしたところで、どうせなら食べていけばと少女のお許しを得て一緒にテーブルを囲んだ。 最中ずっと、少女がなんだか妙にこちらを観察するような目を向けてきていたが、マナーがなっていないとかだろうか。見直したほうがいいのかもしれない。 |