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水無怜奈は事故って病院に運ばれたらしい。 バイクで走ってるところを車で囲い込んだら前方の車に乗り上げて逃げようとし、運悪く飛び出してきた子供を避けるため結構やばい転がり方をしたんだと。相変わらず何かが憑いてる感ある。 それからジェイムズの友人がやっているという病院に搬送され、命に別状はなかったものの、現在は昏睡状態とのことだ。 意識がないんじゃ尋問はできないしいつ目覚めるかもわからず、他の幹部たちの尾行は撒かれてしまったらしく手が空いてしまったのもあり、捜査官みなで交代して二十四時間見張りを行うという話である。 ハブられてたおかげで伝聞ばっかりの情報だ。切ない。そして現状で俺のやれることは少ない。 ジェイムズもやや方針を決めあぐねているようで特に指示もないので、とりあえず見張りの当番になるまで水無怜奈について調査でもやるかなあ、と考えながら病院の廊下を歩いていると、窓の外に小さな人影が見えた。 外に出て背後から寄って伺えば、少年は何やら蝶ネクタイを口に当てながら電話をしているようだった。 不思議なことにあの通りのいい声はキレイな女の人のものになっている。 「…………あ、赤井さん?」 「面白い玩具だな」 通話を終えて振り返った少年は驚いた様子でアワアワとした。あんまり見られたくないシーンだったらしい。またひみつ道具か。コナン君の某えもんは阿笠氏なんだろうな。もうタイムマシンでも出さない限り驚かん。 「えへへ……えーと、ジンを撃ったって本当?」 「ああ」 「ありがとう。あと、ごめんなさい、米花にいると思わなくて」 「いや、君の連絡があってよかった」 「おかげで小五郎のおじさんは助かったけど、あれのせいで全部FBIがやったと思われただろうし、赤井さんがジンに狙われることになるんじゃ……」 「あいつはもともと俺のことを殺したがっていたから、大して変わりはしない」 「え」 「しばらくは様子見しかないだろう。飯でも食うか」 使えねーやつ認定も多少は修正されたようだ。デキる六歳に無能アラサー男扱いされるのは事実でもつらい。 ダメ押しで食事に誘えば、コナン君は戸惑いながら頷いた。あからさますぎたか。しかし子供のご機嫌取りの方法なんて他にわからん。玩具なら既にいっぱい持ってるようだし。 助手席で足をプラプラさせるコナン君を横目で見ながら運転をし、さほど時間もかからずレストランへつくと、喫煙席にしようと言ってくれた彼と隅のボックス席に座り、メニューをざっと見て注文をする。 「じゃあボク、ナポリタンとコーヒー」 微妙におっさんじみた渋いチョイスである。 俺は何食っても一緒なので、同じやつを、と頼んだ。 ポアロなんかに行って俺と毛利探偵に関係があると思われたら困るだろうと病院近くにあるファミリーレストランハイドにしたものの、それ言ったらそもそもこうしてコナン君と連れ立ってることもアウトな気もしないでもない。 今度から外歩く時は社畜コスでもやるべきか。いやでもスーツ姿はこないだの狙撃のとき見られてしまっているんだった。 俺もそうだが、狙撃を阻止するため事務所の窓にシュートをかまし毛利探偵に声をかけたらしいコナン君がジェイムズたちと行動したり病院に出入りしているのは果たして大丈夫なんだろうか。 ジンはコナン君の顔を覚えているかどうか。あいつ興味がそれると途端に忘れるからいいのかな。取引相手の顔とか帰りの車内でもう忘れたとか抜かしてた気がする。キャッシュクリアのスパン短すぎ。 「そういえば赤井さん、ジョディ先生と何かあったの?」 「ん?」 思いの外早く出てきたナポリタンを取りあえず胃に詰めていっていると、くるくると器用な手つきでフォークに麺を巻きつけながら、コナン君が心配そうな顔をして言った。 「ジェイムズさんと合流してから、状況を赤井さんに伝えてるのかって話になったんだけど、ジョディ先生は拠点の捜査官には伝えたからって言ったんだ」 それから再度その捜査官に確認して、ちょうどその時俺がいなかったのを知ったらしい。特に俺に伝えろとは言い添えてなかったからこっちまで連絡が来なかったんだってよ。困ったもんだな。 「改めて知らせようってことになって、でもジョディ先生、赤井さんに電話するの躊躇ってたから……」 「……」 「“あの夜”は全然そんな感じじゃなかったのにって、ちょっと気になって」 コナン君がそんなわけなかろうに自分のせいかなどと言い出したので俺が悪いんだと訂正した。ポンコツな上小学生に気を使われまくって情けないにもほどがある。情緒の発達がどうのとか言ってすまんかった。 暗殺や狙撃の阻止をやってのけたり他人を騙って休暇申請通したりだのやるあたり普通の成人よりもメンタルバリカタ、正直その気遣い方だって六歳がやるもんじゃないとは思うが。 「……赤井さん?」 なんだか食う気が失せたのでフォークを置いてタバコに変え、こちらを見上げるコナン君に、口の端が汚れているぞと言って紙ナプキンを渡してやった。そういうところは子供っぽくて俺でも可愛いと感じる。 なんとはなしにその声が聞きたくなって、皿を脇に押しやって肘をつき、今回の件についてどう思う、などとどうでもいいことを聞く。 それからはじめ戸惑いながらも次第に流れるように変わっていく、子供離れした言葉たちを論理的に組み立てる響きのいい音に耳を傾け続けた。 |