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 おケツ丸出しトリガーハッピー男は本国で護送車ごと爆発四散しちゃったんだってよ。この人でなし!
 アイツ武士じゃなくてニンジャだったのか。やられてしまったからにはもう是非もないよネ。
 しかし噛み損噛まれ損である。

 無に帰したそれに加え、証人保護プログラムはすげなく断られ、“彼女”の行方も掴めなくなり、あれから組織らしい動きはさっぱり見られず、捜査チームには若干敗戦ムードが漂っていた。
 “彼女”のいた期間に通院した患者達がいるため現在はその調査を行っているが、それでも収穫がなければ、一旦一部の捜査官を帰国させ規模を若干縮小しようかという話もちらっと出ている。
 緊急性もめぼしい案件もないのに多数の捜査官を長期に外国へ滞在させ続けるのはお金がかかる上もったいないんだな。
 人手があるといえば聞こえはいいがその分の物資や拠点を確保しないといけないし、外国人の集団は目につきやすくて日本警察に隠れてやっている立場としては動きにくい。
 “彼女”から組織にお漏らしアンド突撃されても困ると、割れてしまった拠点全て処分と放棄をして移転しただけでも、結構な手間と出費があったのだ。
 というかそもそもFBIは国外活動を想定しての組織じゃない。

 その場合でも一応俺は言い出しっぺだしあの子もいるし残らせてもらう予定ではある。
 ついでにジェイムズもまだ日本にいるつもりらしい。
 アニマルショーの追加公演でもあるのか、ベンツ持ってきちゃったから減価償却で税がちょっぴり安くなるのを待ちたいのか。さすがにそんなみみっちいことしないか。滞在費用のほうが嵩むしな。

 拠点で調査の経過をまとめていると胸元の携帯が震える。取り出して画面を見ればメールの着信だった。
 すぐ後に入り口の方から気配がしたため、内容を確認して取り急ぎ“Thanks”とだけ返信し携帯を仕舞った。

「ジョディさんのお見舞いしないんですか?」
「俺はもう行かないほうがいいだろう――それより、十番はどうだった?」

 やってきた部下はビミョーな顔をしたあと肩をすくめて、隣に座ってソファを揺らし、A4サイズの書類を俺の膝へ乗せてくる。
 ぱらぱら捲ってみると、英字で綴られたお手製のパーソナルデータや、カルテやレセプト、採血結果のコピー等が印刷されていた。

「……確かみたいですよ。直近の健康診断でクレアチニンが若干基準値を上回っていたようで」
「安静の指示と抗菌薬の処方か。妥当だな」
「一応採血をした看護師の身元も調べましたが怪しいところはありませんでした。おそらく自己判断で来院していないだけでしょうね、健康診断もギリギリになって指定病院以外で受けていますから。こいつはただのジャパニーズビジネスマンですよ」
「除外を検討しよう。他は?」
「三番は治癒、連れてきていた祖母は後日自宅で転倒骨折して入院中。十二番は老健へ入所したんだそうです。大変そうでしたよ、同室者が眠れないってんで。いやあ、高齢社会って感じですね」
「認知症で譫妄が激しかったんだったな……残りは八人か」
「そっちはマイヤーがやってますが……」

 こりゃダメですかねえ、と部下がため息をつく。ダメかもしれんね。
 そこそこの期間居座っていたので“彼女”がやりだしてからの初診も多く、青森に行くという設定だったからか邪魔をされないためなんだか結構な数を他の病院へ回したりしていたせいで、“彼女”がいなくなってから医院へ来なくなった患者もそれなりにいた。
 ついでに病院受診なんて個人の自由なもんで、フラッとやってきてパッタリこないという輩もいて、調べ尽くすのにはなかなか骨が折れる。
 資料を見る限り“彼女”は診察も処方も的確にやっていたようだし、高校での評判も上々でなんの問題もない医者ライフだったとか。
 なんで犯罪者なんてやってんだろうな。実はシャブ中とかなんだろうか。
 美人女医さんやれば生活安泰だよha……いや、アレ?

「…………?」
「赤井さん、どうかしました?」
「何でもない……」

 ……なんだっけ、ベルモットさん? いかん、例のあの人扱いしていたら名前を忘れかける。


 ちなみにさんざんとばっちり受けた新出先生(真)は、おばあさんたちに向こうの生活が合わなかったとかで帰国し、医院と“彼女”の始めた校医とを引き継ぐようにして続けていた。
 あの完成度の変装でやられたことだからそんなん知らんわとほっぽり出すわけにもいかないんだろうが、人がいい。
 実はちょっと顔見に行ったら来てもいいよと言われたもんで、捜査の合間にちょこちょこお喋りしに行って茶を貰ったりベッドを借りたりしている。もちろんタダではないぞ。
 あそこで横になるとちょっと体が軽くなる感じがするので、脳内でこっそりセーブポイントと呼んでいたりもする。いや教会だろうか。
 彼なら銀の食器を盗んだら燭台もくれそうな気がしないでもないが、なかなか正義感の強い人のようだから、一部とは言え患者の情報を部下にすっぱ抜かせてると知れたら、さすがの新出司教も助走つけて殴るかもしれん。墓まで持ってこ。


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