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 どうにかこうにか拠点に戻ると、捜査官たちと俺とで互いに謝罪しまくり、どちらが先に床を頭で突き破るかのチキンレースみたいになってしまった。
 彼らは俺があの場を離れた少しあとに戻ってきたらしい。
 少女が救急車を呼んでくれていたようで、同僚の一人はジョディに付き添って病院だ。いい子だな。
 収穫は男一人、また調整が必要になる。

 状況を確認している最中、玄関の方からやってきた部下の一人が俺の肩を叩いた。

「赤井さん、ちょっと」
「……なんだ」
「あの男なんですが……」

 搬送に同乗した同僚がジョディから聞いたところ、おケツ丸出し男の名はカルバドスというらしい。
 なんとなく覚えがある。たぶんキャンティが言っていた近〜中距離メインのレミントン大好き男だ。
 どうも処置をしたあと別所で軽く尋問してたんだが俺をご指名とか。……えーやだホモ?
 あんまり気乗りしないんだが、ジェイムズにYOU行って来なYOと言われるとYes,sir以外言えないんだなあ。


 一応ちゃんと手続きをして抑えた物件の一つだし、男の身柄についても本部には話を通しているんだが、若干廃墟じみた場所で手負いの男監禁してるとどっちが犯罪組織なんだかわかんないな。
 ほぼ拘束具ナシでも身動きの取れない男は、ベッドに寝っころがったまま首だけをこちらに向け、俺を見てニヤリと笑った。

「会うのは初めてだな。キャンティから聞いてるぜ」

 カルバドスお前もか。キャンティ結構おしゃべりさんだからな。お口もちょっと悪い方だから何言われたんだか。ボルトアクション大好き野郎程度に留めておいてくれてると嬉しい。

「てめえの脳みそぶちまけてやるって息巻いてた」

 元気そうだなあ彼女。

「……そうか」
「つまんねえ男」
「ベルモットに呼ばれて来たのか」
「羨ましいか」
「そうだな。彼女は何故少女たちを狙っていた?」
「……ふん」
「ペドフィリアのケでもあったのかな」
「んなわけねえだろタコ」

 睨みつけられてしまった。うーんドッヂボール。
 「なあ、わかるだろ、ライ」と男が口角を上げる。

「俺が撃ったのは惚れた女のためだ。それ以上でも以下でもない」

 あっこいつ話通じない系の人だ。
 なるほどおケツ丸出しでライフルぶっ放すほど彼女のことが大好きらしい。バナナの皮で転んでも彼女のためとか言いそうである。
 愛が全て教信者は時にサイコパス野郎より厄介だ。こういうタイプは得意じゃない。下手なお触りしないでさっさと身柄引き渡しを済ませちゃんとした環境で尋問したほうがいいだろう。

「オレは別に、我が身が可愛くなったんでも、てめえの査定に色を付けてやろうってんでもないぜ。ただヒトコト言っとこうと思ったんだ」

 もう帰っちゃおうかなと気をそらしたのがいけなかった。

「――地獄に落ちろ、クソ野郎」

 あ、やるなこれ、と思った瞬間に、何とも言えない鈍い音が響いた。

 男の口元から血が垂れ、噎せて咳き込みのたうち回り始める。
 アホなミスをしてしまった。
 とりあえずばたばた暴れる体を押さえつけて呂律怪しく殺せ殺せと喚く口に手を突っ込み、気管が塞がらないよう舌根近くを引っ掴んで体勢を変えさせ、部屋の外に控えていた部下を呼びつける。
 数人が飛び込むようにやってきて一緒に抑え込み、俺に「大丈夫ですか」と声を掛けてきた。

「――! ――――!」
「Shut up!」
「Oh, shoot!」

 手先の感触的にだいぶ千切れかけている。思い切り良すぎだろ。武士かよ。頭だけだからって油断しちゃいかんな。
 こんな状況で死ねるわけでもなし、ただただ痛いだけだろうによくやる。粘液の絡む咳や呼吸音はもうお腹いっぱいなんだから勘弁してほしい。
 俺がいたままだと興奮しっぱなしだろうし任せろと言われたので離脱して、ジェイムズに電話を掛け、報告とごめんねしておく。
 どうもがっつり噛んでくれたらしく俺の手からも血が出てるようだ。部下がいなきゃお肉モグモグされてたかもしれん。いつの間にそんなヘイト稼いでたんだろう。

「……わからないな」

 ――自己犠牲なんてそれこそクソの役にも立たないし、やったところでロクなことにならない。ましてや痛む体でそれをやるなんて。


 男の身柄は結局米国送りになったらしいが、あのSAMURAIソウルと無残な舌では、もう言葉を引き出すことは難しいような気がする。
 心配しなくてもどう考えたって俺は地獄行きなのに、余計な世話焼きさんだなまったく。


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