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 ジェイムズを交えて本国との調整等があったため、盗聴は居残りの部下に任せてそちらを済ませ、他の捜査官たちより遅れて作戦の場所に辿り着くと、そこには誰もいなかった。
 予定していた配置場所全て回ったが人っ子一人見つけきれず、頭をよぎったのは“いじめ”の三文字である。
 なるほどこれがハブってやつか。いじめられる方にも原因があると聞く、俺の場合は思い当たる節がありすぎてどれが火薬として比重が大きかったのかプレゼンしてほしいくらいだ。
 だが仮にもFBI捜査官だ、もし個人的には嫌いでもそんな陰湿で仕事に影響の出る手法は用いないだろう。しない……はずである。多分。捜査内容に不満があっての集団ボイコットか?
 携帯を取り出して若干ドキドキしながら捜査官の一人に発信すると、彼は別にシカトもガチャ切りもせず至って普通に応対し、何かあったんですか、などという。それこっちの台詞。

『でも、ジョディさんが今日は撤収して明日にすると』

 ナンデ? ジョディナンデ?
 今回の作戦は“彼女”がハロウィンパーティを利用することありきではないのか。
 念のためパーティに紛れ込ませた捜査官の一人がいるが、彼からそれが中止になったなんて報告は来ていない。むしろ殺人事件が起きてしまったとアワアワしていたくらいである。落ち着いてヴァンパイアの振りしてろとは言っておいた。
 ひとまずジョディに連絡を取ろうとするが、マナーモードにしてるのかなんなのか電話に出ない。
 もしかして彼女の身に何かあったのか、と心配していると、近辺で車の走行音がしてさっと身を隠す。どうやら二台。
 やってきた車は予想通りプジョーとプリウスだ。うわー。
 もう一度先程の帰宅った彼に電話してとにかく戻ってくるように伝えたが、こりゃ間に合わないだろうな。せめて空気読まずにジェイムズがいる方の拠点に帰ってきてほしかった。

 “新出智明”と対峙するジョディを少しだけ見守ったあと、流石に身一つで来ないだろうと付近を探ってみれば、ちょうど彼女たちが立つあたりを狙えるコンテナの上部におケツ丸出しの男を発見した。いやズボンは履いてるが。無防備って意味で。
 こういう背中とケツ見せてるスナイパーを見るとついついこっそり忍び寄って喉元掻っ切りナイフキルしたくなるのは俺だけではないはずである。
 ナイフも持ってないしさすがに本当にやりはしないが、ジョディに向かって発砲したのを見て、てめーうちのジョディさんになんてことしやがるんだとちょっと腹が立って手足をポキポキ折っておいた。
 骨って意外に頑張る子だから安心してほしい。どっかのDADA教師に変な薬飲まされなきゃすぐ治る。
 そんでもって剥ぎ取りしてみるとライフルにショットガンに拳銃三つ、それぞれの予備弾薬、更には懐にデリンジャーとファイティングナイフまで隠し持っていた。何がやりたいんだこいつは。サバイバル? 寄生菌のパンデミックでも起きてんのか。
 せいぜいメインウェポンとハンドガンにフラグくらいにしとかないとガチャつくだろ。この場所この体勢でショットガンてお前。

 男の口を適当に塞いで転がし、そのまま装備をまるごと拝借して、スコープ越しに彼女たちの姿を眺めて様子をうかがう。
 こそこそと喋っているため会話はいまいち聞こえないが、なんとなくジョディが嫌な事言われているようなのは分かる。
 手も出さず大ダメージを与えるんだから女性は怖い。ひどい顔だ。ちょっとやめてやれよ。

 そろそろ撃つべきだろうかというタイミングで、サッカーボールがプジョーのガラスを突き破ってこっちまで飛んできてちょっとびっくりした。
 直後助手席から姿を表しマスクをベリベリやったのは見覚えの有りすぎる小学生だ。
 輝くサッカーボールを放ったのはグレートマックスなコナン君であった。ドアガラスはフロントより脆いとは言え、小学生がボールで突き破るようなもんじゃないと思うんだが、相変わらずやることなすこと恐ろしい。
 またコナン君がサラっと解決するのかと思いきや、彼は不意に何かに意識をとられて“彼女”に眠らされてしまう。恐らくあの吹き矢モドキを逆手にとられたか。暗器の類は女性の十八番だからな。


 コナン君の視線の先にスコープを動かすと、そこに写っていたのは――あの赤茶色の髪の少女。

  ――ひゅう。

 ぶわ、と鳥肌が立った。頭が揺れてちょっとくらくらする。
 落ち着こうと一度スコープから目を離してそこを見下ろせば、“彼女”が少女に向かって、銃を持った腕を持ち上げようとしていて――


  ――あのこを。

  ――あのこを、おねがい。


 何やってんだあの女。

 視界が真っ赤になる。わかってる。大丈夫だ。心配するな。外すわけない。もちろん目の前で派手に散らしたりもしない。トラウマになっちゃうだろ。当たり前だ。そんなことしない。大丈夫だ。わかってる。わかってる。問題ない。

 レティクルはいつの間にか合っていて、引鉄は軽やかに動いた。

 ほら。安心してくれ、××。




 ――気づけばどこともしれない森の中で、木の幹に寄りかかって座っていた。

 膝の上にはジェイムズに手配してもらったP226が、バレルをこちら側に向けて置かれている。誰かがいて触った証拠だ。
 けれどそれが誰なのか思い出せない。会話したような気もする。なんだか何かが見えた気も。

 携帯には部下や同僚から馬鹿みたいな数の着信が入っていた。作戦予定の時刻から四時間以上経っている。そりゃ鬼電もするわ。
 急いで戻ろうと立ち上がると、ぽとりと小さな物体が草の上に落ちる。
 拾い上げてみればどうもUSBメモリのようだったが、これも覚えがない。少なくとも俺のものではない。
 首を傾げると同時に着信があって、ひとまずそれはポケットに仕舞った。謝り倒さなければ。


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