06

 エンジンの駆動と、車体が風を切る音ばかりが耳を支配して十数分。

「どうして、黙るんですか」
「……不愉快にさせるようだからな」
「だからコミュニケーションを諦めるっていうんですか」
「どうしても分かり合えない人間というのはいる」
「分かりあえないからと断絶するのは、言葉を尽してからでしょう。その努力を怠る人間に対してすべき事であって、たった一言二言で判ずるようなものじゃないはずです。歩み寄りって知ってますか?」

 それ鏡見て言ってくれる?

 バーボンは器用に、幾つかの車両を追い越す運転をしながら、助手席であるこちらに視線を向ける。
 その様に、コミュニケーション云々はどうでもいいから事故らないでくれと思う。
 どうもバーボンの口ぶりからして、行為がどうこうというよりもそもそもの相性が悪いという線が濃厚のようで、だから下手な言葉を紡ぐより口を噤んでいるほうがマシなのではないのかと思ったのだが、それはそれで彼の癪に障るらしい。難しいやつだな。
 どうしたものかと悩んでいると、バーボンが今度は少し俯く。事故るなよ。

「…………すみません、僕が言うことじゃなかった。わかってる……わかってるんです……」

 なにがわかってるんだろう。頼むから前見て。きみ今その元気な足でアクセル踏んでることはわかってる?
 日本人はメンタル繊細だというが、というか俺もそのはずだが、ここまでだっただろうか。こんな情緒不安定さで犯罪組織の潜入捜査なんてしてたら自殺待ったなしだと思うんだが大丈夫なのか。
 こいつを配属した上司の顔が見てみたい、と思ったがこんな登場人物を出してきたのは俺の脳だった。病んでる?

「スコッチを殺そうとしたのが僕なら、あなたの体に穴を開けたのも僕だ……そのくせにこうして、あなたばかりを……けれどスコッチを……どうして……」

 俺が聞きたいよどうしてハンドルを握りながら進むべき道を見ないのか。比喩とかじゃなくて。
 とにかくつらつらと何かを言っているが、的を射ない言葉ばかりだ。彼の中でも整理がついていないようで、とにかく俺に何かを言わせたいという意図しか掴めないので、適当な事を言っておくしかあるまい。火に油を注ぐ結果しか見えないのだけれど。

「……抗えない不条理や理不尽はいくらでもあるし、人間には手綱を引けない感情も多々ある。それに合わせはしても慣れる必要はないだろう。義理で全てを飲み込まなくていい。気に食わないというのならばそれでいい。俺の行動は全て俺の勝手によるもので、きみが謝罪をしたり気に病む必要のあることなど一つもない」

 ――なぜだか、油でなく水程度の効果があったようだった。


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