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 道取りもおかしく明らかな違反車を見逃したパトカーを追って中を覗いてみれば、ものすごくそれらしい人物がコートを被せられた状態でおっさん二人に挟まれて乗っていた。
 どうやらトレノでもレビンでも走り屋でもなかったようである。まあそりゃそうだ、ただのパンダカラーの車ならそれこそ五万といるし、誰が運転しているともしれない一般車の動向が不審であるか否かの判断はしづらい。その点パトカーは仕事中の公務員さんが乗るもんだからな。
 死体遺棄先に選ばれるとはさすが魔境GUNMAである。身元不明の外国人男性の遺体など犬猫同様に転がってるからだろう。しかし向かう先が未開の地となると、意識されず尾け続けるのは困難だ。
 ……それは冗談にしても、そもそも車内で殺ってしまうかもしれないし、降りたところをぱすぱすやるのは得策ではなさそうである。

 やや後方で追走しながら、被疑者を乗せつつお山のある方へ遠足に向かう警視庁のパトカーを眺める。
 警戒される前にどうやってジェイムズを回収するか、いっそこのまま手刀の代わりにシボレーをぶち当ててダイナミックエントリーならぬダイナミックちょっとすいません切りでもやるか。結構楽しいかもしれない。
 犯人は拳銃を所持しているようだが、隙さえ作ってしまえば彼なら離脱することは容易いだろう。

 微妙に悩んでいると、バックミラーになんだか見たことのあるおじさんが運転する車が入り込んできた。しかも助手席や後部座席で子供がワチャワチャしているのが見えたから、こりゃああのコナン君も乗っているに違いない。
 ここで事故起こしたら後続である彼らもただじゃすまなそうだと更にスピードを落として彼らに道を譲ると、可愛らしい黄色のワーゲンが犯人たちの車をズイと追い抜き、コナン君と愉快な仲間たちがなにやらお遊戯会よろしくタスケテーだのとガチ誘拐の前で誘拐劇をやりはじめる。

「…………おお」

 それを追って次々やってきた本物のパトカーやら警光灯を付けた車があっという間に偽パンダを囲み、一斉にブレーキをかけて強引に止めて犯人たちを取り押さえ、拍子抜けするほどあっさりと解決してしまった。
 俺が慌てる必要は欠片もなかったようである。やはり戦は数。日本警察もなかなかやるもんだ。
 それにしても車間距離って大事だね。さっきの映像を教習所の教材にすればいいんじゃないかな。



 脇道に入って路肩に停めしばらく待っていたら、被害者のジェイムズは何事もなかったかのようにひょっこりとやってきてナチュラルに助手席へと乗り込んできた。

「よかったんですか、事情聴取」

 俺の問いに、ジェイムズは「ああ」と言ってさっとシートベルトを着けた。バックレていいもんなら俺もバスジャックの時帰りたかったな。
 見つかって俺までもろともおまわりさんとお話会するのは嫌なので、そのまま脇道を進み裏の通りに出て、拠点を目指し車を走らせる。

「結構時間を食ってしまったな。ただランチをするだけのつもりだったんだが」
「……貴重な体験が出来ましたね」
「いや、こういう事自体は以前にも経験したことがある」
「拉致を?」
「アウトフィットの幹部にね。あの時は流石に肝が冷えた――それに比べれば、なんとも平和な、ドライブみたいなものさ」
「そうですか」

 ジェイムズは随分涼しい顔をして、眼鏡のレンズを拭く。これ別にほっといても一人で帰ってきたんじゃないかな。
 なんだかえらく焦り損だが、なにより君がいたからね、と言われればまあ世辞だろうと満更でもない。迎えに来た甲斐はあった。なかなか気持ちよく使ってくれる人である。
 携帯を返すと、ジェイムズは代わりに血の付いてない真新しいライオンのストラップを俺の手に乗せてくる。社交辞令でなくマジで買ってきたらしい。彼の分は恐らく警察が回収してしまっただろうし俺はいいと断れば、そうかそうかと笑って自分の懐に仕舞う。
 そして、彼は手にした携帯で捜査官達に状況の説明とレンタカーの回収を命じ、軽く息をついた。

「――あの少年、確かに大したものだよ」

 ストラップのメッセージにジェイムズの居場所、犯人の目的、そしてあの逮捕劇の脚本作りと、どこまで把握し関与をしていたんだかは知らないが、警察関係者に知り合いがいるようだったし、その伝手で通報と協力をしたことは間違いないだろう。

「ギフテッドの頭脳を利用したいと狙っているんだろうか」
「ありえるかもしれませんが」
「君は“レインマン”と呼んだそうだな。彼に何かあるのかね」
「特に何ということもありません」
「どういう意味だ?」
「……雨が降るとやってくる男のことですよ」


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