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 ものを美味しそうに食べるのは才能だ。
 いっぱい食べるきみがスキってちょっと分かるよ。ちょっとな。他意はない、決して。

「いねーけど」

 もりもり頬張ったお肉を飲み込んだのち、黒羽くんが首を傾げる。
 昨日のバスジャック犯vsレインマンで気になって、ちょうど飯を食いたいと言う黒羽くんを焼肉に連れてきたついでに、身内や親戚に小学生くらいの男の子はいないかと聞いてみたのだが、どうやら血縁じゃないらしい。

「では、子供に変装できるか?」
「流石に無理。多少の体格差は道具や細工でなんとかなりますけど、小学生ってーと骨格から大幅に違うでしょ」
「まあ、そうだよな」
「なんで? ……もしかして、そーいう趣味……?」
「いや違う、断じて違う。何を言ってるんだ君は」

 冗談半分本気半分のジト目を向けられてちょっと焦る。自分のこともそういう風に思ってるのかとか勘違いされたらたまらない。
 吸いさしのタバコを灰皿に置き、少し迷って、ジョディから貰ったあの写真を机に出した。手元は器用にカルビを網に敷き詰めながら、黒羽くんがそれを覗き込む。

「名探偵じゃん」
「……めいたんてい?」
「あ」
「知ってるのか、この少年を」

 やっべ言っちまった、と顔に書いてあった。
 この子頭は良いのに、もともとお調子者ぎみな性格のせいか、結構表情がわかりやすいしおっちょこちょいなところがある。顔の造形もだが、そういうところもちょっとコナン君に似てると思うんだよなあ。
 黒羽くんはへらりと笑いつつ、どうぞどうぞといい具合に焼けた肉を俺の皿に乗せてくる。正直俺はいらないんだが、戻すのもなんだしせっかくだからと口へ運ぶ。舌に当たる感触はいいような気がする。俺に食べられる尾崎牛がかわいそうだな。

「――近衛さんそれ、仕事?」

 相変わらずのペースでもぐもぐと食べる合間に、黒羽くんがすうと真面目な顔をして聞いてきた。

「いや、ただの興味だ」
「へえ、じゃあこの写真は?」
「貰い物でね」
「そっちが本当のこと言わないんなら、オレだって正直に応える義理はないですよね」

 まるで犯罪者を見るような目で言うのよして。つらい。
 別に嘘は言っていない。しかし元が隠し撮りチックなのに加えて複写の写真はそら怪しいよなあ。もうちょっと他の、こういう時疑われそうにない写真が欲しいのだが、なかなか手に入らないのである。コナン君と仲よさげだったジョディに頼んでいる最中だ。

「……事件に巻き込まれた際にいた子なんだ」

 タバコを吸いつつそう返せば、彼はまだ怪訝な顔をしつつも、「なんだ、またかよ」と呆れたように言う。

「“また”?」
「オレもあんの。つーか新聞見てない?」
「……あまり」

 そこまで長居するつもりはなかったもので、日本のニュースを本格的にちゃんとチェックするようになったのは志保がいなくなってからだ。それまでは、というか今も、ある程度は俺も動いて調査を行うが、だいたい部下が怪しい情報をピックアップして来てくれて、それをもとに検討したり整理したりする事のほうが多いのである。コナン君の方はジョディに任せてたしな。

「多分調べたら出てくるぜ」
「そうか」

 高校生にググれカスと言われてしまった。そのつもりではあったけれどなんだか情けない。昨日の今日だから許してヒヤシンス。とりあえず帰ったらアーカイブでも漁ろう。

「あのボウズがいると、やりにくくて困るんだよなァ……そうじゃなくても殺人事件が起きたりして」
「よく事件に遭うとは聞いたが……」
「なんかツいてるのかも」
「しかもやけに頭が回るようだったな」
「あ、やっぱり。首突っ込んできてどーのこーの言ってたでしょ。何の事件?」
「バスジャックだ」
「あらら」

 近衛さんも不運っていうか、幸薄そうだよな、と笑われた。事件自体はニュースで知っていたらしい。
 日本でバスジャックなんて滅多にあることじゃないと思うんだが、あららで済ませる男子高校生もシュールだな。彼はなかなか境遇もやってることも特殊だから、ちょっとやそっとの事どうってことないんだろうけれど。

「――そんなことより、近衛さんもっとメシ食ったほうがいーぜ」

 空いた皿を積み上げながら、黒羽くんが追加の注文をバンバン入れはじめた。
 男子高校生の食欲はすごい。その分動きもするんだろうが燃費が悪いってもんじゃない。高かろうが安かろうがとにかく量がいるので、一般家庭で男の子ばかりだとエンゲル係数高くて家計が大変だという話も頷ける有様である。
 まあ、幸せそうに平らげてくれるのは見ていて気持ちがいいし、金の使い甲斐があっていい。


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